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第119話の6『バスケットボール部』

 「見慣れない場所だ。どのような施設なのか」


 みんなにはコンテニュー前の記憶はないので、体育館に入った仙人の反応も新鮮である。特にバスケットボールに使うゴールが異様に見えるらしく、何かの罠ではないかと危ぶむようにして目を細めていた。


 「あれは、きっと大丈夫だと思います。遊びに使うものなので」

 「ほお」


 探索がてらに体育館の倉庫を開けてみると、バスケットやバレーのボール、バトミントンのセットや体操のマット、その他にも用具のあれこれが入っていた。バスケットボールを取り出し、試しにゴールへ向けて投げてみる……入らない。俺はバスケットボールは下手なようだ。


 「こうして、あのネットに投げて入れる遊びですね」

 「よく知っているな。しかし、なぜこのような場所に」


 なぜ、こんな場所に体育館があるのかは俺も疑問であるが、ひとまずバスケットゴールが危険なものではなさそうだという事は伝わったようで、仙人は物珍しそうにバスケットボールで遊び始めた。


 「これを決めれば、隠された仕掛けが動き出すかも解らん。やってみるぞ」


 そう言って仙人は爪を立てつつ片手でボールを持ち、高く放るようにしてシュート。バスケットボールは吸い込まれるようにして、キレイにネットを通り抜けた。しかし、ゴール下から逆側のゴールへシュートというのは前代未聞である。人間技ではない。


 「オレサマも……やるぞぉ!」

 

 ボールがゴールしても特に仕掛けなどはなく、本当にただのバスケットのゴールだと解った。面白そうだったからかヤチャもボールを手にするのだが、持った瞬間に握力に潰されてボンと破裂してしまった。バスケットボールの大爆発なんてのも見るのは初めてだったが、もし近くで爆発していたら俺は鼓膜をやられていたかもしれない。それほどの大音量であった。


 「ねぇ。あれ……不気味なんじゃが、先に進まないのん?」

 「待って……待って……」


 閉じた魔王城の扉からは謎の声が依然として聞こえており、それを嫌がってルルルは早く先に進みたいと言っている。この先に魔王が待っているのだろうか。バスケットで遊んでいる仙人とヤチャ、それとグロウは置いておいて、ひとまず俺は校舎へ続く扉を開いた。


 「……テルヤ。敵はどうだ?」

 「いないみたいですね……」


 ゼロさんも俺の腕の下から、校舎の廊下をのぞいている。やはり、学校の中には生徒も教師もいなくて、同時に魔王も魔物も姿はない。ルルルも俺と一緒に扉の先を見つめているが、怖がっている様子もなさそうだ。よし、先へ進もう。


 「仙人。ヤチャ。グロウ。行きますよ」

 「なあ。魔王を倒して帰ったら、あれ作ろうぜ」

 「よかろう。わしと勝負だ」

 「おおおおおぉぉ!オレサマが最強……だぁ!」


 いたく3人はバスケットを気に入ったらしく、グロウはバスケットゴールやボールを自作するつもりなのか、形を憶えるようにしてジッと見物していた。これを機に、この世界でもスポーツが流行るかもしれない。とりあえず、それもこれも魔王を倒して世界を平和にしたあとの話である。


 体育館を抜けて狭い通路を進み、校舎側の廊下へ足を踏み入れる。廊下の窓は開くし、外の景色も本物のようだ。間取りや部屋の場所も、コンテニュー前に入った魔王城と同じ。またヤチャが勝手に職員室のドアを開き、顔を入れて室内を見ている。


 「ヤチャ。何かあったか?」

 「……むう」


 職員室には教師用のデスクが並んでいて、バインダーやファイル、ノートなども乗っている。引き出しも開くし、中には文房具も入っている。こうして見ると、こちらが本物の魔王城で、前に入ったのは形を似せた罠だったのかと思われた。試しに名簿らしきものを開いてみる。


 「……?」


 生徒の名前や成績といった細かい事項はぼやけていて、生徒の写真らしきものもシルエットになっていた。ここもまた、実際の学校ではないのだろうか。テレビもつけてみたが番組は映らない。得られる情報は他にないと見て、俺たちは廊下へと戻った。


 「テルヤ。これはなんだ?」

 「どうしました?」


 職員室から少し進んだ場所には掲示板があり、そこに張り出されているポスターをゼロさんが指さしている。書いてあるのは……ミスコンテストのポスターかな?なお、ミスコンテストというのは学校で一番の美女を決める目的の催しで、リアルではまず行われないが、創作上の高校では頻繁に開かれる行事である。


 『《ミス・ミステリアス》小和井夢子こわいゆめこ

 『《西洋から来た女神》エリザベス・シャーベット』

 『《生徒会長》積出玲つんでれい

  

 この3人がミスコンテストにエントリーしているようだ。写真はシルエットになっているけど、この名前は……俺が行くはずだった恋愛アドベンチャーゲームのヒロインたちと同じである。


 「テルヤ……どうした?」

 「あ……すみません。これはですね」


 ヒロインの名前を見て考え込んでしまい、ゼロさんの疑問に答えるのを忘れてしまった。ええと……なんと説明しようか。


 「……これは……美人を決める大会みたいなものですね。それの貼り紙です」

 「美人を決める大会……?」

 「……まあ、ええ」


 美人を決める大会か……。


 「……どうした。顔が赤いぞ?」

 「……あ、いえ。大丈夫です」


 俺にはゼロさんがいるから興味のないものだ……などと言おうとして、やっぱり恥ずかしくってやめた。でも、きっとヒロインの3人より、俺の彼女の方がキレイなので、そこは恥ずかしながらも否定しない……。


第120話へ続く

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