第119話の2『学校見学会』
「うむ……どうだ?」
「どうでしょう……」
慎重に先をうかがっている俺の後ろから、仙人が顔をのぞかせている。体育館と校舎の間は狭い通路が繋いでおり、その先には学校の廊下が続いている。この学校を……俺は知っている。俺が行くはずだった世界の学校に、そっくりなのである。その通りであれば、1階の廊下の突き当りには生徒用の広い玄関があるはず。階段の上には4階まであって、その上にはあるのは屋上だ。
「ルルル。何かいそうか?」
「いる。でも、場所は解んないんよ」
俺には魔力がないから、敵がいても気づかない可能性がある。この中で最も魔力が強いであろうルルルに声をかけつつ、ゆっくりと足を進めた。窓の外は明るくて、まだ陽も傾いてはいない。なのに、校舎内には生徒や教師の姿はないし、校庭にも人影は見えない。不気味さに冷や汗を流しながらも、強く光が照り返している床を踏んだ。
「……見慣れぬ建物だが、外観と気配にそぐわぬ清潔さじゃな。どのような用途の施設なのか」
「ですね。怪しさ満点です」
仙人は、学校を見た事がないらしい。俺たちのメンツを振り返ってみても、この場所に勘付いた人は誰もいなさそうである。俺とヤチャの故郷にも学校らしきものはなかったし、ゼロさんやゴウさんは生まれも育ちも特殊だ。グロウは魔物だから、学校を知っているわけ……。
「ここ、あれだろ?」
「……?」
予想外にも、グロウが真っ先に施設の持つ目的について言及した。
「食いもんの匂いがする。飯屋だろ?」
「でかい飯屋だな……」
いや……待てよ。高校には大きな食堂がある。匂いが残ってるってことは、人がいるのかもしれない。この場合、人を探して歩いた方がいいのか、避けて歩いた方がいいのかは微妙だが、まずは体育館で聞いた音の原因を探ろう。
「えっと。階段は……」
玄関の近くに、屋上まで繋がる階段があるはずだ。そこを目指そう。職員室や多目的室の扉は閉まっているけど、危険そうなので開けないで先へ進もうと決めた。そんな俺の心配も他所に、後ろで扉が開くガラガラという音がした。
「……?」
ヤチャが勝手に扉を開いて、職員室をのぞいている。開いてしまったなら仕方がない。俺も職員室へと目を向けた。
「ヤチャ。誰かいるか?」
「ふふふ……いない」
職員室にも誰もいない。デスクにも物は何も乗っていなくて、開いている引き出しも……あれ?
「……?」
試しに手前のデスクの引き出しを開けてみようとしたのだが、引っ張っても開きすらしない。強く揺すってもデスクは揺れもしない。カーテンすら引いても動かないし、テレビもあったけど、ボタンを押しても電源はつかない。
「……テルヤ。ここは、魔王城なのか?」
ゼロさんから当然の疑問が出た。魔王城だ……と言いたいところだけど、見渡せば見渡すほど魔王城ではないし、細部を見れば見る程、ただの学校でもない。窓だと思っていたものも、よく見ると景色の静止画が張られているだけである。なんなんだろう……この空間は。
「……誰だ!」
みんなで職員室の物色をしていたところ、急にゼロさんがドアの外へ向けて叫んだ。念の為に、ドアは開きっぱなしにしていたのだけど、その向こうに一瞬だけ、俺も何かの人影を見た。細身の姿で、制服を着た女の人のようだった。すぐさま俺は職員室から飛び出す。何者かが、廊下の先にある階段をのぼっていくのが垣間見えた。
「……行ってみましょう」
敵の姿を見失うのも怖い。罠の可能性もふまえつつ、俺たちは人影を追って階段を登った。2階。3階。4階の次は屋上だ。屋上へ続く扉の前まで来て、そこに異様なものが装着されているのを見つけた。
「さっきの音は、これかな……」
屋上へ出るための扉には俺の腕よりも太いチェーンがかかっていて、赤と青と黄の色をしたハート型の南京錠でロックされていた。間違いなく、この先に何かがある。ただ、カギがないと開けられなさそうだ。
「……」
また階段の下から、何者かの視線を感じた。あの人がカギを持っているのだろうか。1つ下の階へ降りると、近くにある部屋のトビラが開いていた。なんの部屋だろう。暗くて中は見えないし、部屋の名前も書かれてはいない。ゆっくりと扉を開き、顔だけのぞかせて室内をうかがった。
「……」
うっすらと暗闇の中に何かが見える。部屋へ片足を踏み入れた。次の瞬間、俺の目の前にメッセージウィンドウが表示された。
『勇者は死んでしまった。コンテニューします。 残り回数0回』
……ええ?
第119話の3へ続く






