第119話の1『魔王城』
《 前回までのあらすじ 》
俺、時命照也はギャルゲー主人公なのだが、なぜだかバトル漫画っぽい世界に飛ばされてしまう。冒険の末、ついに到着した魔王城。ここまで来たら、あとには引けない。魔王をぶっとばして世界平和を取り戻すぞ。
あれが魔王城か。入り口らしき大きな扉はギラギラとした黒い金属でできていて、どのくらいの力で押せば開くのかも定かでない。周囲には魔物の姿をあしらった石像が幾つも設置されており、城へ近づく者へと威嚇の視線を向けている。その割には門番らしき影は1つもなく、逆に不用心であって怪しくすらある。
「……」
すでに昇竜の門は閉じていて、もう後ろに道はない。この空間には本当に魔王城しかないのか、岩でできた地形が空中に浮かんでいて、そこにドンと魔王城が建っているだけであった。殺風景であり、あとは崖の向こうには紫色のモヤしか見えない。
「仙人。あの石像……安全だと思います?」
「生き物の気配は感じられんが」
「オレサマが行く……ぞぉ!」
本当に敵はいないらしい。俺が心配ばかりしているのを見て、ヤチャが先陣をきって歩き出した。仙人が言う通り石像は全く動かず、ものものしいポーズで左右から俺たちを見ているだけであった。ひとまず、石像地帯は突破だ。いばらの巻き付いたアーチ状の門もあったが、俺たち全員が横並びに歩いても余裕な広さで、こちらも特に問題はなく通過できた。
「みんなで押せば開くかな」
「オレサマだけで十分……ふんんんっ!」
大きな城の正面についた、大きな扉の前に立つ。見上げるだけで首が疲れるような大きな扉だ。力をあわせて開こうと考えたが、ヤチャが腕を鳴らしながら腕試しとばかり前に出た。軽々と両手で押し開ける。
「……?」
城の中からパッと光が漏れ出し、俺たちは警戒して足を下げた。完全に開き切った扉の先には……テカテカと輝く木製の床、バスケットのゴール、鉄でできた壁などが見える。これって……。
「体育館だ……」
俺も含めて、見慣れない光景に動揺してしまい、恐怖心とは別の不気味さに足がすくんでしまった。魔王城の中には、学校の体育館らしきもの用意されている。その事実に俺ですら戸惑っているので、他の人たちからしてみたら異様そのものであろう。ヤチャだけは物怖じせず、堂々と体育館へと入っていく。
「ヤチャ。大丈夫か?」
「む……」
ヤチャ1人で行かせるわけにもいかないので、俺も汚れたクツのまま体育館へと踏み込む。ガランとしていて誰もいない。窓の外には青空と太陽が見えている。ひとまずの安全を確認し、俺は扉の外にいる皆を手招きした。
ゼロさんと仙人は危ぶむ足取りながらも入室し、敵がいないかと周囲に注意を向けている。ゴウさんとグロウは何か感じ取ったのか、入るや否や攻撃の構えをとった。ルルルは……体育館に足を踏み入れたあと、すぐに外へと戻ってしまった。
「どうした?ルルル」
「……なにかいる」
「……?」
内装は学校だけど、魔王城だから……きっと魔王はいるはずだ。でも、今のところは敵の姿も見えない。とはいえ、ここにルルルを残していくのも危険だ。俺はルルルを迎えに行き、背中をさすってあげながら体育館へと連れ込んだ。その時、どこかでダンッと重い物のぶつかる音がした。
「ッ!」
「……大丈夫だ」
正直、俺の方だって心臓は止まりそうな状態なのだけど、不安を見せると他の人たちも不安になってしまう。俺がルルルのそばに寄り添っているのを見て、ゼロさんも俺の横に立ってくれた。敵の姿は依然として見えてこない。すぐに敵には対処できるよう、なるべく固まって歩こう。
「あっちだぁ!」
音は大きかったが、遠くから聞こえた。ヤチャが魔力を使って飛び上がり、音のした場所へと一直線に行こうと体育館の壁へ体当たりを仕掛ける。だが……体育館の壁はヒビすら入らず、ヤチャはラッシュをかけて殴り続けた末に、成果もなく足を床に戻した。
「むう……」
「仕方ない。そこのトビラから行こう」
ヤチャが殴っても壊れないとなれば……間違いなく、これは普通の体育館じゃない。確実に何かある。戦いの心構えをとりつつ、俺は体育館から校舎へ繋がる扉を開いた。
第119話の2へ続く






