第118話の7『通過』
「ヤチャ。ここで待機を頼む」
「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」
ゼロさんとルルルは竜を誘導してくれている。仙人とグロウとヤチャの3人は、俺と共に光の輪の近くで待機だ。あとはゴウさんだが、あの人も魔力は強そうだから、まだ竜に追いかけられている可能性は高い。
「……今度は竜が来るぜ」
「そうなのか?」
「この音なら、間違いねぇ」
刀の振動で音を探知してくれているグロウが、竜の接近をしらせてくれた。ヤチャと仙人もガガガガガという地中を削る音で方向を察したらしく、打ち返そうとばかりの姿勢で構えをとった。ただ、きっと大丈夫だ。俺は自分を信じて、万が一にも転ばないようヒザだけはついておいた。音が近い。来る!
『がああああああああああああああぁぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
ドカンと音がして、俺たちの立っている場所の床に何かが下からぶつかった。勢いよく反動で打ち上げられ、俺は天井に頭をぶつけた後、そのまま床へと転がり込んだ。
「いってぇ……」
痛みをこらえて顔を上げ、周囲の状況に目を向ける。盛大に転んだのは俺だけであって、他の人たちは何食わぬ顔で俺を見ていた。床にもヒビは入っていない。俺たちが安全地帯にいるのを知って諦めたのか、床の下に激突してきた竜は去っていったようだ。
「やっぱり、ここは竜も食えないみたいだな」
「むん……勇者よ。どういうことなのだ?」
そうか。俺がやろうとしていることを、まだ他の人には伝えていなかった。仙人の質問を受けて、俺は光の輪と竜の関連性を予想しながら伝える。
「ここに光の輪が置いてあった訳ですが……この光の輪が昇竜の門の正体らしくて、ここ以外の場所に置くと、地形を吸い込んで大きくなるんです。それは竜も同じみたいなので、つまり自然物を食べて大きくなった竜にぶつけてやれば」
「門が開く」
「恐らくですけど……」
仙人と俺の会話を聞いて、ヤチャとグロウも目的を理解したらしい。そうして情報を共有したところで、今度はゴウさんが到着した。
「着き……着き……ました」
「ゴウさん。竜は見ましたか?」
「3体……合体した。かなり大きい……です」
今しがた、俺たちの元へ来た竜を除いて、すでに他3頭は合体したらしい。同時に、ゴウさんは地形の崩壊具合についても教えてくれた。
「もう……この場所以外は、ほぼ空洞……です」
「ゼロさんも、もう上に戻り始めているな。そろそろ……ッ!」
マップを見ると、ゼロさんの名前とカーソルが俺たちの元へと近づいている。大きな竜が俺たちの元へ来るのも時間の問題……そう言おうとしたところで、急に俺たちの乗っている床が粉々に砕け散った。周りにあった岩や土、氷なども吸い込まれるように下へと落ち、辺り一面が白っぽい空間へと様変わりする。
「……!」
「テルヤ!」
体が落ちる。下から飛び上がってくる小さな影が見えた。ゼロさんと、彼女を持ち上げて飛び上がってくるルルルだ。精いっぱいに手を伸ばしたが、ゼロさんの右手は俺の手には触れずに擦れ違った。下からは最後の竜と合体を果たし、全体像が把握できないほどの大きさとなった竜が口を開けて上昇してくる。早く光の輪を……あれ?
「……?」
持っていたはずの光の輪がない。どこだ?体を落下させながら探すと、それは遥か上の方にあった。やばい!突然の落下にビックリして手放してしまった!
「うあああああああぁぁぁぁぁぁ!」
しくじった……竜の口が迫る。熱い。体が焼き尽くされる。そう思った瞬間、上から強烈な光線が降ってきた。
「はああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ヤチャの放った光線だ!それは俺の横を通り過ぎて、下から舞い上がってくる竜へと打ち込まれた。光線を口の中に吸い込み、竜はバクンと口を閉じる。透明な体の中に、うっすらと光の輪が見える。そうか!ヤチャ、魔力砲で光の輪を押し込んでくれたのか!
『……ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!』
悲鳴というよりかは、強い雄たけびのような声を発して、竜は大爆発を起こした。周囲には光が溢れ、何も見えなくなる。体から重さがなくなっていくのを感じる。あらがえない。眠るようにして、俺は意識を失った。
「……」
「テルヤ。起きろ」
「……?」
ゼロさんの声だ。目を開く。黒い地面と、ゼロさんのズボンの膝部分が見えた。ここは……どこだ?
「……」
ゼロさんの手を借りて身を起こし、どす黒い景色の向こうにある巨大なものを見据える。まがまがしいオーラを放つ……豪華な城のようなものがあった。それも、あちこちドクロが乗っていたり、やたら随所がギザギザしていたりと、コテコテな造形をした悪魔のような城だ。あれが……。
「ま……魔王城?」
第119話へ続く






