第118話の6『待機中』
俺は砂場を見つけると、この場所の大まかな地図を指で描いた。竜が自然物を吸収しながら巨大化しているとすれば、かなりの部分で空洞化が進んでいると考えられる。せまい場所に逃げ込めば行き止まりに当たる可能性もあるので、なるべく広い通路を選択して進むのをお勧めする。
「ルルルを頼みます。仙人も、そろそろ限界だと思うので」
「了解した」
俺が片手を差し出すと、ゼロさんは指と指をしっかりと組み合わせるようにして、ぎゅっと握手を交わした。でも、すぐに指をほどいて、勢いよく仙人を追いかけていく。そんなゼロさんを信じて、今の俺がやるべきことは、門を開くための準備である。
「グロウ。上に行くぞ」
「おい。お友達を行かせたまんま、俺たちは逃げんのか?」
「今回は、ゼロさんじゃないとダメなんだ……あと、仙人にも戻ってきてもらわないと困る。いわば、ここが司令塔だ」
「へえ。そういうもんか」
俺はグロウを連れて氷の道を進み、光の輪が置いてあった場所へと戻った。そこへ輪を安置し、俺はしゃがみ込んだまま目を閉じる。まぶたの裏にマップが表示される。この場所のマップは鮮明だが、竜の居場所や食い荒らした部分などは反映されていない。ただ、ヒロインであるゼロさんの位置と名前はリアルタイムに確認できる。
「なあ、勇者。俺は?」
「……」
「……おい。聞いてんのか?」
「……え?なに?」
考え事をしていて、グロウの声が聞こえなかった。どうした?
「だからよぉ……俺の仕事は?」
「……え?」
またお腹でも空いたのかと思って話を聞くと、手伝いに名乗り出てくれているらしい。それが意外で意外で、やや俺の方が戸惑ってしまった。
「え……協力してくれるの?」
「あの化け物は、敵っつーか、自然災害みてぇなもんだ。勝負にはならねぇし、俺が1人で処理できるもんじゃねぇ。考えるのは、てめぇに任す」
「……なんかグロウ。少し変わった?」
「は?」
前までなら、強そうなやつを見かけたら突っ込んでいって、無理やりにでもなんとかしてくるのがグロウだったはずだ。今は敵を見極めて、俺に対処を任せている。頼ってくれているのは嬉しい。嬉しいのだが……本当に今回は、やってもらえそうなことが思いつかない。そうだな……。
「……しいていえば、音。竜の気配がしたら、教えてほしいんだけど」
「はっ。楽勝な仕事だぜ」
グロウは細い刀の1本を地面につきさして、そのミネの部分に指を当てた。数秒後、何かを探知した様子で口を開いた。
「……足音だ。なにか来るぜ」
「足音?」
竜が近づいているとなれば、足音はかき消されて聞こえないし、そもそも竜には足音がない。きっと今、無の境界の中にいる生き物は俺たちだけだ。とすると、仲間か?
「おおい……勇者よ」
氷の通路を走って、やつれた様子の仙人が現れた。無事にゼロさんと交代できたらしい。背中にルルルはいない。これも作戦通りだ。
「わしだけ助かって、精霊様が不満げだったぞ」
「でしょうね……」
この中で最も魔力が強いのは恐らくルルルで、竜が自然の魔力を探知して進む習性ならば、追いかける優先順位はルルルが一番のはず。おとりになってもらうと言えば聞こえは悪いが、これで他の人たちは安全に集合できるし、竜の動きも把握しやすい。
「仙人。念で連絡とかできますか?」
「いいぞ」
「仙人が到着したこと。ゼロさんに左に進んでもらいたい旨。お願いします」
「おお」
これで一方的にだが、ゼロさんとルルルに報告ができる。これを聞いて、ヤチャとゴウさんが来てくれれば大方の準備は完了となる。再び、グロウが何かの接近を感知する。
「今度は足音じゃねぇ。なにか突っ込んでくるぜ」
「え……」
ここにいる仲間の中で魔力があるのはグロウだけだから、わざわざ竜が迫ってくる恐れも少ないはず。それに光の輪が吸収しないということは、この場所なら竜も口に入れられないと思うんだ。音が近づいてくる。逃げた方がいいのか?俺たちは固唾をのんで身構えた。
「……」
地面を掘り進む音が最高潮まで達した……そこで、ピタリと音が止んだ。
「……?」
バンと地面の岩が弾けて、いかつい顔が下から現れた。
「テルヤァ!」
「……ヤチャかよ」
掘リ進んだ方が近いのは解るが、心臓に悪いので……ちゃんと歩いてきてほしい。
第118話の7へ続く






