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第36話の2『息』

 ゼロさんが身をよけたところへ、俺はジ・ブーンに向けてヤリを構えながら走る。と……その時、大きな揺れが部屋を襲い、天井の穴から大量の水が押し寄せてきた!


 「うわっ!」

 「勇者……ッ!」


 水流に押し流されないようヤリを床に突き刺し、踏みとどまるのがやっとだ。到底、ヤリを投げ込むなんてできっこない。ジ・ブーンが地下へ突入した時の穴か、はたまたエビゾーさんがジ・ブーンを突き飛ばした時にできた穴かは解らないが、海と部屋との間が衝撃で開通したと見られる。


 『流れ込んでくる』というよりは『水中に押し込まれる』勢いで水は下の階を制圧し、順を追って俺たちがいる部屋を水没させ始めた。


 今や水かさは俺の身長を超えており、すると下の階へ流れる水がなくなった分、体にかかる水圧は少なくなった気がする。ヤリを床から頑張って抜き、その浮力を持って水面を追う。


 「勇者!ジ・ブーンがいないぞ!」

 「ええ?」


 あっというまに部屋は水槽状態になってしまって、天井付近には俺が頭を出すくらいしか空気は残っていない。急いで潜って水中をうかがうも、さっきまでジ・ブーンがいた場所には何も見当たらず、あれだけの巨体が波もたてずに消えている。一旦、水面に戻る。


 「……本当だ!どこにもいない。どこに行ったんだろう」

 「……ッ!」


 俺の報告が終わるより早く、隣を泳いでいたゼロさんが水中に引き込まれた。足がつって溺れたのだろうか?すぐに水中を確認する。しかし、思わぬものを見つけてしまい、俺は息を止めようと努めつつも、口の中の空気を漏らしてしまった。


 水中メガネがないから詳しくは見えないが、ゼロさんの足に髪の毛のようなものがからみついている。なんだろう……巨大な頭?それと、巨大な水の塔で出くわした腕の化け物だろうか。他にも2体くらい何かがいる。それらがゼロさんを水中に引きずり込んで、息の根を止めようと集団で抑え込んでいる。


 ダメだ……助けに行こうにも、息が続かない!かつて水面だった場所へ顔を近づけるも、すでに水は天井まで達していて、吸える空気は微塵もない。このままじゃ死ぬ!いや、落ち着け!何かないか?死を目前としての混乱を無理やり鎮め、かすむ視界の中に生き残るヒントを探す。


 ……なんだろう。金色の何かが水に浮いている。あれは……姫様が入っていたカップだ!ジ・ブーンが落ちてきた時に引っ繰り返って……しめた!俺はヤリで進む方向を調整しながら、逆さの状態で浮いているカップの中に頭を突っ込んだ。


 「はぁ!はぁ……」


 一息を吸い込む。が、二息はついていられない!俺はゼロさんを助けるべく、頭を水に押し戻した。すると、急にヤリを持つ手が軽くなり、すぐそばにエビゾーさんらしき姿を見た。


 「今のケガした我では、ちと力が足りん。合図でカップを蹴りだせ!」

 「……ッ!」


 ごぼごぼという水の中にも、エビゾーさんの声が聞こえる。どうやら水が入ってきたこと動きやすくなり、床から脱出できたらしい。返事こそできないまでも俺は無言で頷き、敵を標的としているヤリにしがみついたまま合図を待つ。


 「……今だ!行けい!」

 「ッ!」


 俺がカップを蹴りだすと、その勢い以上にヤリは推進力をもって飛び出した!エビゾーさんが操縦しているのか、またはオーラをまとったヤリが意思をもって動いているのか。青白い光を放ちながらヤリはグングンと進む!そして、吸い込まれるようにヤリは敵の頭らしきものへと直撃した。


 「……ばああああぁあぁあぁ!あふぁばばばばぁ!」


 ジ・ブーンが出したと思われる悲鳴がする。一応は勇者の俺が一緒に突っ込んだためか、もがき苦しむ声が水の中に籠って響く。


 あれ?エビゾーさんの声は水中でも聞こえるのに、ジ・ブーンの声は何か言っているようで言葉になっていない。もしかして、ジ・ブーンって水中で呼吸できないんだろうか?むしろ、俺たちが攻撃したものはジ・ブーンなのだろうか?後をたたない謎は尽きないが、ひとまず保留とする。


 ゼロさんにまとわりついていた者たちが分散し、その隙を見て咄嗟に俺はゼロさんの手を取る。でも、上に戻っても空気はない。ただ必至で右手にゼロさんの手、左手にヤリを握りしめている俺だったが、一緒にヤリを持っているエビゾーさんが何かに気づいた様子で動く。


 「一時、退却としましょう!さあ!」


 ルッカさんの声だ。すると、何か大きな乗り物が近くを通り、俺たちをさらうように乗せて上昇を始める。乗り物は目の前の岩々を勇ましく砕きながら、一直線に酸素のある場所へ向かっているようだが、ゼロさんの息は持つだろうか。いや、一呼吸した俺はいいとして、地上までは長らく距離があるし、このままじゃキツイのは間違いない。


 「女性の方。こちらへ、お顔を……」


 なんだろう。マリナ姫がゼロさんに顔を近づけて、なにか煌々とした光を与えている。その光がおさまると、まだ水中なのにゼロさんの声が聞こえた。


 「……助かった。すまない」

 「いえ……女の人でしたら私も恥ずかしくはありませんので」


 水の中なので何があったかはボヤけて見えないが、姫の技を使えば水中でも呼吸ができるようになるらしい。でも、男には使ってくれないっぽい。俺も水圧やら無呼吸やらで頭が痛くなってきた……。


 あと1秒……で、意識を失っていたかもしれない……その瀬戸際、俺たちを乗せた乗り物は水面へと到達。海よりも深い夜空と、輝く白い月が俺に酸素を与えてくれた……。


第36話の3へ続く

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