第118話の4『また落とし物』
すごくまぶしい。まぶしいんだけど、別に熱くもないし、危険性は感じない。光を手でさえぎりながら近づき、光の輪の中へと指を入れる。すべすべとした触感がある。そのまま、俺は光の根源をつかみとった。
「……」
丸い。蛍光灯みたいなものが俺の手に握られている。これ自体が光を発していて、裏側から見ると、やや光が弱い。昇竜の門ではないようだが……いや、輪っかの中に何か見えるぞ。
「ゼロさん。これ、輪っかの奥なんですが……」
「……」
俺の言葉を聞き、何も言わずにゼロさんは輪っかに手を入れた。ゼロさんの腕は輪っかを貫通せず、通した部分だけが別の場所へとワープしたような状態になった。すぐには俺は輪っかを引っ張って、失われたゼロさんの腕を元に戻す。
「い……痛くなかったですか?」
「痛くはないが……輪の向こうに、別の場所があるようだ」
すると、この輝く輪っかを通り抜けることができれば、魔王城のある空間へと転移できると推測される。俺は試しに輪の中へと頭を突っ込んでみた。
「……肩くらいまではいけるけど」
「テルヤ……」
現在、ゼロさんから見た俺は肩から上だけ別の空間にワープした状態であって、その姿が異常であることは想像に容易い。ひねりにひねっていけば肩までは入る。ただ、これ以上は無理に押し込むと抜けなくなる可能性がある次第、ゼロさんにご迷惑をおかけする前に引き返した。
「ゼロさんは体が細いので、入れそうじゃないですか?」
「……それは」
そう言いつつゼロさんの体を見つめ、俺の体より太い場所を見つけてしまった。あちらも自分の胸の辺りを注視しており、考え込むようにして黙り込んでいる。ややセクハラ発言をしたような気持ち……俺も恥ずかしながら言葉を失った。
気を取り直して……俺は輪っかを左右に引っ張ってみたり、元あった場所へとおさめてみたりしたが、特に変化はない。そうこうしている内、大きな地震が俺たちを襲った。
「あっ……」
俺たちの近くを竜が通ったらしい。地面の揺れに足をとられて転んだ拍子に、俺は手をすべらせて輪っかを落としてしまった。輪は俺たちが登ってきた通路へと転がり込み、下へ向かってコロコロと落ちていってしまう。
「あ……しまった!」
ここから下に転がっていけば、そこは溶岩地帯に続いている。そんなところに落っこちてしまったら、もう取り戻す手段がない。追いかけようとするが、まだ足元の揺れはおさまっていない。
「……私が行く」
動かずにいる俺に代わって、ゼロさんが地面の揺れを振り切って駆け出した。数秒後、竜が遠のいたのを感じ取り、俺もゼロさんを追って走り出した。
「……?」
氷の道の中央に、やや削れたようなわだちができている。ゼロさんの足跡ではないし、あの輪っかの重さでは氷は削れないはず。これはなんなのだろうか。とにかく、俺は足をすべらせないように下へと向かった。
「ゼロさん!」
「ああ。光の輪は無事だ」
溶岩地帯の手前にて、輝く輪っかを手にしたゼロさんの姿を見つけた。服に黒い焦げが見える。体をはって取ってくれたのかもしれない。そんなゼロさんの足元近くに、岩が不自然にくぼんでいる場所を見つける。とすると、やっぱり先程の氷についた跡も、光の輪が削ったものなのだろうか。
「……地面のこれ、光の輪がつけたんですか」
「恐らくは。それと……」
「……?」
ゼロさんは輪っかを胸元辺りに持って、まばゆい輝きを俺に向けながら言った。
「少し大きくなった気がする」
「……」
まぶしくて見えないが……多分、ゼロさんの胸の話ではないと思われる。
第118話の5へ続く






