第118話の2『別行動』
作り出された4つの頭は、それぞれ別の方向へと飛び去り、赤い頭の竜が俺たちの方へと飛んでくる。その軌道から見て、俺は咄嗟にゼロさんをかばう形で身を低くした。
「あぶない!」
「……ぐッ!」
俺たちの横を赤色の竜が通過し、土や岩のえぐられる音と振動が伝わる。同時に、一瞬だけゴウさんの声も聞こえた。音が鳴りやみ、俺たちは顔を上げる。
「……あっ……ゴウさん!」
片手に魔力の光を集め、なんとか竜の攻撃をはねのけたゴウさんの姿が見えた。無事ではあるようだけど、俺たちの方へと手のひらを向けて、そちらへ動かないよう示している。
「こいつ……わ……私が……ッ!」
再び土の揺れる音がする。また来るのか?竜の動きを読み取ってか、ゴウさんは俺たちがいる方とは別の向きに走り出した。彼を追って、赤い竜の音や気配も遠ざかっていく。ひとまず静かにはなったが、おとりになってくれたゴウさんはなんとかしないと……立ち上がって追いかけようとした俺の手を、ゼロさんが強くつかんだ。
「おそらく、ゴウは問題ない」
「でも……」
「私たちは、やるべきことが別にある……と思う」
「……?」
ゼロさんに言われて、俺は頭に冷静さを取り戻した。考えてみよう。あの竜はオーブを持っていた俺ではなく、ゴウさんを追いかけていった。そして、今の俺たちには追手はない。すると……。
「もしかして……あの竜、魔力に反応して動いてるのか」
「私たちに、あの竜を倒す術はないだろう。だから、あれの正体を突き止める」
ゼロさんが言うのであれば、きっとあれは俺たちにどうこうできるものではないのだろう。正体といってもヒントは少ないが……1つ気になることはある。
「では……仙人が言っていた、上の方にある門っぽいものを見に行こうかと」
「ああ」
あの竜は俺たちを襲ってきているというよりは、無作為に魔力のあるものを追ってくらいついているといった様子だった。俺とゼロさんは魔法が使えないから、追いかける優先順位が低いのだろう。恐る恐る通路を進むが、竜の通る音こそすれど、こちらへやってくる気配はない。
「……」
上を目指して登ること数分、深い崖の谷間みたいな場所に出た。滝らしきものが横に見えているのだが、下へ流れるはずの水は静止していて、食い荒らされたように穴だらけになっている。谷底は深くて見えない。足場らしきものもあった様子はあるのだけど、もはやチリが浮いているくらいで飛び乗れそうな場所もない。
「……」
他に道はなかったから、ここを行くしかなさそうである。さて、どうしようか。
「私が行く」
「行けそうですか?」
「任せてほしい」
ここから崖の向こう岸までは、8メートルくらいありそうだ。一応、着地点は現在地よりも下だけど、普通の人間の脚力では絶対に無理だ。
「……」
しかも、ゼロさんは俺をお姫様だっこしている。ゼロさんはキメラだから、人間離れした身体能力は持っているが……これは、どうなのか。そう悩みながらも、遠くからは竜の移動するドドドという音が聞こえている。早くしないと、みんなが危険だ。ここは腹をくくろう。
「……ゼロさん。信じてます」
「行くぞ」
可能な限りの助走をつけて、ゼロさんがガケから飛び出す。その勢いは凄まじく、あんなに距離を感じた着地点が、ぐんぐんと近づいてくる。これなら……そう思ったところで、右にある滝の裏から、何か黒いものが飛び出してきた。
「……ッ!」
「おいっ!ジャマだ!」
カラスの姿のグロウだ!このままではぶつかる!グロウの後ろからは、青色の竜も追随してくる。
「……くっ!」
ゼロさんは俺を抱えたまま姿勢をずらし、棒高跳びのように背をそらした。グロウと影が重なるも、衝撃はない。うまく背筋ギリギリでグロウをかわして、そのままゼロさんは谷の向こう岸へと転がり込んだ。
「テルヤ。ケガは?」
「俺は……はい。ゼロさんは?」
「大丈夫……」
お互いに体を見せ合って無事を確認。ほっとしたところで、不穏な声が聞こえたきた。
「おいっ!こいつ、なんとかしろ!」
グロウが青い竜から飛び逃げながら、こっちに必死でやってくる。なんとかできそうにないので、俺たちは背中を見せて正直に逃げ出した。
第118話の3へ続く






