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第117話の1『技術の勝利』

 (前回までのあらすじ)


 俺、時命照也ときめいてるやは恋愛アドベンチャーゲームの主人公になるはずだった人である。なんだかんだで四天王の持つオーブを手に入れ、あとは魔王城へと向かうだけなのだが、その入り口は遥か天高くだ。そこへ行く為に、シエルさんがクジラ丸さんを呼んでくれたのだが……。

 「おぉーい。勇者ー」

 

 黄金に発光するクジラらしきものへと変貌を遂げたクジラ丸さんが、大きくて短い手を振りながらセントリアルのてっぺんへ目掛けて飛んでいく。前より体も大きくなった気がするし、声も野太く変化したように思う。大人になったと言われても、前に会ってから大して時間は経っていないが……。


 「シエルさん……あれから、クジラ丸さんに何があったんですか?」

 「あの一族は、ある年齢に達すると脱皮して、羽が生えてくるのだ。体が金色の光を発するようになれば、大人の証拠だ」

 

 俺はクジラ丸さんをクジラだと思っていたのだが……本当は何か違う、未知の生命体なのかもしれないと考えを改めた。そこへ、今度はブレイドさんが俺を探してやってくる。


 「勇者様。こちらにいらっしゃいましたか」

 「どうしました?」

 「発射装置が完成しました故、セントリアル天空闘技場へお連れするようにと」

 「発射装置?」


 そういや、セントリアルの方々も空へ向かう方法を考えてくれると言っていたな。発射装置という響きが怖すぎるのだが……やっぱり発射されるのは俺たちなのだろうか。いや、断言できる。間違いない。


 寝室へと戻り、全員いるのを確認して天空闘技場へ向かった。セガールさんは魔王城へ行く訳ではないが、興味本位で見に行きたいというので同行していただく。エレベーターの前でアマラさんが待ってくれたので、それに乗せてもらってセントリアル城のてっぺんを目指した。


 「やあ、よく眠れた?」

 「ビックリするほど眠れました……」

 「そうかい。頼もしいね」


 アマラさんに聞かれて、恥ずかしながらも正直に答えた。そうだよ。翌日には魔王城へ潜入しようという手前、しかも女の子と2人きりの部屋。どうして眠れたのか。逆に俺が驚いている。


 「ブレイド君。守備は?」

 「現状、黒い化け物は結界にはばまれてございます。作戦決行に支障はないと」


 大勢が乗ったエレベーター……絶対に重量500キロを超えている箱を、アマラさんは軽々と上に動かしながら会話している。すごい。それはともかく、作戦決行って事は……燃料で動く乗り物は完成したのか。結局、どんなものが完成したのかな……。


 「あの後、どんな乗り物ができたんですか?」

 「ええ、はい。深夜、科学班の妙な技術革新が起き、技術班の意識改革が起き、姫様の余計なちょっかいが入り、紆余曲折を経て空飛ぶ車が完成いたしました」

 「一晩で何か、大変なことがあったのだけは解りました……」


 俺が気絶するように眠っている間にも、書庫兼ラボでは世界を守るための計画が休みなく動いていたらしい。この調子なら、城を包囲している黒い化け物たちは心配なさそうである。天空闘技場へ到着したらしく、チンと音が鳴ってエレベーターの扉が開いた。


 「……」


 天空闘技場には戦闘機のようなものが並んでいる。昨日までバイクだったものから、まさか飛行機ができあがるとは思わなんだ。おそらく、セントリアルには武闘派の方々の他にも、別のジャンルの鬼才天才が何人もいるのだろう。乗り物を整備している人の中には、あのセントリアル名物である超ロング滑り台を作った人もいた。


 「クジラ丸さんは……」


 上に飛んできたはずなのに、クジラ丸さんがいない。それと、戦闘機とは別に、闘技場の中央には金属でできた塔みたいなものがある。あれは……聞くまでもなく発射台だと思われる。


 「おおい。クジラ丸。顔を見せよ」

 「はぁい」


 シエルさんの呼びかけに応じて声が聞こえてくる。クジラ丸さん……どこにいるんだろう。そうしてシエルさんの指先を辿って天井を見ていたのだが、急に天井が動き始めたのが解った。


 「もう、ボクに乗るのか?」

 「ひとまず、準備を頼む」


 天空闘技場の天井だと思っていたものは、クジラ丸さんの白いお腹であった。建物に体が入りきらなくて上に乗っていたらしい。そういえば、ここに天井なんてなかったな……。


第117話の2へ続く

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