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第116話の4『無味』

 「緊急招集においての議題は、先程の黒い雲に関してだろうか」

 「う~ん……多分、そうでしょうかね」


 俺がセントリアル武闘派衆についてばかりブレイドさんに聞くからして、目の前に迫っている問題をゼロさんが提起している。それに関しては、ブレイドさんも静かに頷いていた。


 「お姉さまはともかく、セントリアルにはアマラ様がいらしゃいます。ですが、防戦一方では掛ける希望もございません。お姉さまの事、攻め入らねば気が済まない性分でございます故」


 サーヤ姫といえば、この世界で俺が会った人の中では、唯一といっていいイケイケな人である。コレと決めたらコレ。ソレと決めたらソレとしないと、黙ってはいられないのだろうとは想像がつく。そんな話をしながらも、ブレイドさんが天井ついている出口を押し上げた。


 「到着でございます。お好きな席へ」


 隠し通路じみた暗い廊下を進み、俺たちは食堂のテーブルの下からはい出る形で到着した。時刻は夕食を逃しているらしく、食事をしている人は多くない。街の緊急事態だからか、談笑なども聞こえず、とにかく静かだ。


 「勇者様だ」

 「ようこそ」

 「あ……ありがとうございます」


 暗雲がたちこめる、先行き不明の状況の中でも、数名の隊員さんが俺に声をかけてくれた。現状を憂いて……というよりかは、同じく戦う同胞へのアイサツといった、負担のない声掛けだ。しかし、みなさんの顔色は芳しくない。やっぱり、それ相応に疲れはあるのだろう。


 「勇者様方。何をご所望で?」

 「厨房には誰もいないですけど……誰が食事を作るんですか?」 

 「この場はワタクシ、ブレイドにお任せを」


 いつもならばカリーナさんがテキパキと料理を用意してくれるのだが、彼女は緊急会議に呼ばれているんだったな。カリーナさんに代わって、ブレイドさんが調理を引き受けてくれる。ただし、作る料理に関して、俺たちへ質問は一切なかった。


 「お待たせいたしました。お米のカタマリ。卵のカタマリ。肉のカタマリでございます」

 「おお……」


 素材の持ち味を最大限に活かした料理が、お皿にゴロンと乗って俺たちの前に差し出された。火は通してある。一応、味付けもされているようで、塩っぽい匂いはする。見た目は美味しそうだけど……。


 「いただきます」

 「ええ。お粗末な料理ではございますが、ご賞味くださいませ」


 フォークでさして口元へ運び、お肉を歯で引きちぎる。肉汁が溢れ、香ばしい油の匂いが漂う。だが……味がない。


 「……」

 「お飲み物でございます」


 俺たちの顔色をうかがい、ブレイドさんはお茶らしきものを差し出してくれた。それも甘そうな果汁の匂いはするのだけど、残念ながら無味である。無味を無味で洗い流す仁義なき無味。むしろ、ここまで無味だといささか不味いのではないかとすら思う。


 「……」

 

 でも、この感じ……前にもあったな。あれは、大賢者様のところで木の実を食べた時だった。何を食べても美味しくなくて、舌触りも悪くて、食べ物とは呼べないものを口に入れているような感覚。ああ……そうか。世界から魔力が失われて、段々と食べ物に備わっていたエネルギーが消え始めているのか。


 「……おい勇者よぉ。なに食ってんだ?」

 「……あ。グロウ」


 グロウとヤチャが食堂に現れ、断りもなしに俺たちの更に乗っている食べ物をつまむ。ここまで完璧に味のしない料理を完食できるのは、女の子の料理を平らげるプロの俺くらい。そう思っていたら、グロウは特に表情も変えずに感想を告げた。


 「うん。いけるな」

 「ほんとか?」

 「まことですか?」


 まさか、これを美味しくいただける人がいるとは。俺も驚いたし、作ったブレイドさんも驚いていた。


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