第116話の1『うさぎさんスーツ』
(前回までのあらすじ)
俺、時命照也は恋愛アドベンチャーゲームの主人公になるはずだったが、今はバトル漫画っぽい世界にいる。四天王の持つオーブを手に入れ、あとは魔王城へと向かうだけ……なのだけど、その入り口は気温の低い天高くにあると解り、防寒着を探すべくセントリアル城のドレスルームへやって来たところである。
「やっぱり、筋肉っていいわぁ……うっ」
筋肉の描かれたタイツを着ているセガールさんが、よろよろと脱力ながらに座り込んだ。キグルミの頭部に隠れて顔は見えないが……どうしたのか。
「あの……セガールさん?」
「……」
し……死んだ?いや、ぜえぜえと荒い息は聞こえる。早く脱がせた方がいいか?俺はキグルミの頭部を引っ張りはずして、セガールさんの顔を確かめた。
「テルヤくん……はぁ……はぁ……やばい」
セガールさんの顔からはお湯でも沸いたかのような湯気が出ていて、水分を失った肌はカラカラに乾いている。水……を用意しようとした手前、カリーナさんがボトルを差し出してくれていた。メイドさんの気回しってスゴイ。
「セガールさん。脱がせますよ?」
「いいわよ……」
『いやよ』と言われても脱がせにくいのに、『いいわよ』だと更に脱がせにくいのは何故だろうか。ゼロさんとゴウさんにも手伝ってもらって、セガールさんが着ているムキムキタイツを脱がせにかかる。防寒着から解放されたセガールさんは、むさぼるようにして水を吸い込んでいた。
「……ふう。生き返ったわ」
「なにがあったんですか?」
「ううん。解らないけど、着たら熱くなったのよ。体が」
見た感じ、セガールさんの着ていたタイツは素材も厚めではないし、そこまでの防寒力を誇るものとは思えないが……どういったものなのか。俺はカリーナさんに尋ねた。
「これ、普通の服じゃないんですか?」
「こちらは極寒地帯特攻用でございます。体温を外へ逃がさず、外気の影響を遮断します。防寒能力としましては最高の部類かと」
つまり、寒いところをずっと歩くためだけに作られた服なのだろう。それを温かな部屋で着てしまったので、必要以上に体温を上げてしまったと思われる。しかし、極寒地用のはずなのに、なぜ筋肉質な裸体のイラストが描かれているのかは、なおさら謎である……。
俺たちは地上から天を目指す訳で、ずっとのぼせるほどのサウナ状態でいる訳にはいかない。他に安全な服はないだろうかと、キグルミの中を物色し始めた。
「……あ」
ウサギ……の耳がついた帽子だ。これは……うさぎのキグルミだろうか。でも、頭の部分がない。帽子が頭の代わりなのかな。
「……カリーナさん。これも、防寒着じゃないですよね?」
「防寒着でございます。こちらをご着用いただければ、雪の中でお休みになられても問題ございません」
一応、防寒着らしい。それを持って、俺はルルルを見つめた。
「あたち、このドレスがあれば、寒くも暑くもないからいいのん」
「いい感じのサイズがあるんだけどなぁ」
「私が着る」
バニーガールの服は子ども用サイズから特大のサイズまでラインナップされていて、最大サイズのものであればヤチャも着られそうだ。ルルルが着たら可愛いと思ったのだが、残念ながら断られた。そのかたわら、ゼロさんが名乗り出てくれている。
「いいんですか?俺が着てもいいですけど」
「いい」
「お姉ちゃんも着ましょうか?」
「カリーナさん……着たいんですか?」
女の子に着てもらったら、さぞ可愛いだろうが……あくまで防寒着の効果を調べる為である。今の着ている服の上から、ピンクのバニースーツを着てもらう。もこもこして可愛らしいけど、温かさはどうだろうか。
「どうですか?」
「……まあ。うん」
セガールさんの時ほど、劇的には温かくないらしい。見たところは、ただ可愛いだけである。カリーナさんも同じような服を着てくれているのだが、そちらは黒くてメイド服っぽい。うさぎメイド服である。
「こちらをどうぞ」
カリーナさんが、ウサミミ帽子をゼロさんの頭に乗せてくれた。すると、スッとしていたゼロさんの顔色が、一気に赤みを帯びた。
「おお……温かくなった」
「なんで……」
「どうやら、服と帽子で化学反応を起こし、温かくなるとか……」
魔法ではなく、化学の力らしい。なにはともあれ、無事に温かい服が見つかったし、モコモコのゼロさんも見られたし、一件落着……。
「……」
同時に……俺たち全員、この格好で昇竜の門へ向かう事に決まった瞬間であった。






