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第115話の6『防寒着』

 「ええと……シエルさん。どうやって空まで行くんですか?」

 「ルッカよ。明日までに僕が呼んでおくから、あと適当に考えておいて」

 「はい」


 思い立ったら行動とばかり、シエルさんとルッカさんも部屋を出て行ってしまった。話し合いは性に合わないとの理由からヤチャとグロウも退散済みで、師匠は疲労困憊につきお休みいただいている。そんな人たちに代わって、アマラさんが部屋へとやってきた。


 「姫様。燃料式二輪車はいかがですか?」

 「よろしくてよ。全て、事は円滑に。ご心配なく」


 この調子なら空飛ぶ燃料式の車だって近いうちに完成しそうだけど、セントリアルの力だけで世界全体を防衛するのは不可能だろう。あくまで姫様たちの行動は対抗手段として、俺たちが魔王を早く倒さなければならない。ともかく、シエルさんの作戦が不明なので、こちらでも別の案を模索してみる。


 「無茶な話かもですけど……アマラさんの力で、空の彼方にある無の境界まで行けたりしません?」

 「ちなみに、どれほどの高さかな?」

 「目で見えるか見えないかくらいの……」

 「……あそこかな」


 そんなざっくばらんとした説明でアマラさんにも通じたらしく、アマラさんは代案を出しながらも直接的な解決策は避けて答えた。


 「高度が増せば、それだけ気温が下がる。その高さまで連れて行くとなれば、生身の体ではキビシイが……打ち上げ程度であれば助力できる」

 「そうですか……ルルル。打ち上げてもらって、一瞬で無の境界を突破できるかな?」

 「う~ん……厚みによるんよ」


 どのみち、実際に無の境界の近くへ行ってみないことには、どのくらいの時間で突破可能なのか、どのような環境が待っているのかまでは解らない。とにかく、寒さに備えて厚着にはした方がいいのだろう。酸素については……。


 「ルルルって、空気の精霊だっけ?」

 「その呼び方、なんかイヤなんよね……いてもいなくても同じみたいで」

 「心配しなくても、ルルルは存在感あるから……」

 「うん。息の心配は大丈夫……」


 空気の精霊と呼ぶと、まるで存在感がないみたいで嫌らしい。まあ、あのイケイケなララさんが近くにいたら、大概の人は存在感を奪われるので、そこに関してはやむなしである。息の心配と、そこまで行く手段は、おおよそ都合がついた。すると、俺たちの会話を聞いていた姫様が、ゼロさんに抱き着いたまま前のめりに声を発した。


 「ええ。セントリアルの科学の神髄を込めて、勇者様一行を打ち上げてみせよう。明日までに!技術士、整備士、司書官の皆さま、よろしくて?」

 「おお!」


 シエルさんが明日までになんとかすると言い出したからか、セントリアルの皆さんも負けじと意気込んでいる。こんなに頼りになる人たちがいてくれるので、空の彼方まで行くのも無理難題ではない気がしてきた。あとは……打ち上げられる心の準備をしておこうと思う。

 

 「では、ワタクシは皆様の指揮へ。ええ。勇者様方は、出発までの一時、お休みになって」

 「解りました……よろしくお願いします」


 姫様が現場監督へと戻っていく中、なんとか俺はゼロさんの身を取り戻した。サーヤ姫……前までは俺に積極的だったのに、ゼロさんと会ってからは彼女にゾッコンである。俺が解放された分はよかったのだけど、彼女をとられるのはいただけない。俺たちは逃げるようにして書庫を後にした。


 「勇者様。お召し物をお探しでございますか?」

 「あ……はい」


 先程の話の流れから、カリーナさんは防寒着が必要だと察してくれた。街まで買いに行ってもいいのだけど、勇者である俺の顔は知られているから、もしかしたら騒動になってしまうかもしれない。どうしようか……。


 「セントリアル城のドレスルームへご案内いたします。お役に立てるものがあれば、ご使用ください」

 「ほんとですか?ありがとうございます」


 どうやらセントリアル城には、衣装の保管されている部屋があるらしい。廊下の先にある階段を通って、上の階へとカリーナさんが案内してくれた。他の部屋とは違う、花の装飾が彫られたドアがある。ここかな?


 「こちらが衣装のクローゼットでございます」

 「おお……」


 ドアの奥には書庫と同じ間取りの部屋があり、でも大量に用意されているのは服のさげられたクローゼットだ。これだけ服があれば、寒さに強いものもあるに違いない。そう思いながらカリーナさんについていくと、なんだか……ゴロンとした服ばかり置いてある場所へと案内された。


 「防寒着の収納庫でございますわ」

 「……」


 防寒着というか……全部、キグルミだ。イヌっぽいものやネコっぽいもの、魔物をかたどったものまでたくさんある。確かに着たら熱そうではあるが……。


 「あちし、これにするわ」

 「セガールさん……魔王城に行かないでしょう……」


 先の戦いでキグルミの胴体部分を失ったセガールさんが、残っている頭にあう体を物色している。着ている。その姿を俺たちに見せつけた。


 「……どう?」

 「ええと……はい」

 

 ムキムキマッチョな裸体が描かれた全身タイツに、イヌかネコかウサギみたいな頭部が乗っている。これは……笑っていいのか。褒めた方がいいのか。コメントに困った。



第116話へ続く

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