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第115話の5『オートバイ』

 「姫殿。それは燃料式二輪車です」

 「おお……勇者様。こちらは燃料式二輪車でございます」


 壊れた壁の穴を通して部屋の中が見える。そこにいるお爺さんが、姫様の乗っているマシンの正体を教えてくれた。にしても……建物の中だというのに、バイクに轢かれそうになるとは思わなかった。まだ少し、心臓がビックリしている。


 「どうぞ。御一行様、お入りください」


 すでに壁には扉より大きな穴があるのだけど、サーヤ姫は律義に扉の方を手で指し示してくれている。ここは街の偉い人の意向にのっとり、あえて扉を開いて中へと入る。


 「……おじゃまします」


 部屋の中には図書館のような場所が用意されているのだが、なぜか汚れの染みた作業服姿の人たちが何人も集まっていた。司書っぽい人もいるにはいるが、そちらも本だなに登って大量の本を運んでおり、姿や格好に似合わない力仕事を任せられていた。部屋の机はどかされていて、そこには何台もバイクが置かれている。


 「失礼します。姫様……こちらは?」


 カリーナさんも燃料式二輪車については初めて見たらしく、どのような用途で使うものなのかという意味合いを込めて、俺がしたのと似たような質問を姫様に向けている。


 「こちらは、魔力がなくとも移動可能な乗り物。私、あの黒くて忌々しい怪物どもと、そちらを生み出している縦長の何か。諸悪の根源を、叩きに向かう予定なの」

 

 世界から魔力が失われて、頼れるのはアマラさんの魔力を込めた魔導力車だけ。そんな状況の中で、サーヤ姫様は魔力を用いない、燃料で動作する乗り物を作り始めたらしい。確かに、これなら城の外で燃料を補充することもできなくはない。しかし、それもすぐに実用化できるものではないようだ。


 「んで。どうよ。姫殿。俺たちの作った二輪車の乗り心地は?」

 「走りはした。後輪が動かぬことだけが懸念ではある」


 重大な懸念が見つかった為、作業服の人たちは資料を見ながら、バイクの中へと工具を突っ込み改良を始めた。魔法が使えなくなって困窮しているかと思って来たのだが、想像した以上に姫様はポジティブである。やっぱり人の上に立つ人って、それなりにタフでないとやってられないのかもしれん。


 「ところで……勇者様。セントリアルには、どのようなご用事で?」

 「それは……折り入ってご相談が……」

 

 何用かと聞く姫様なのだが……その視線は繋がれた俺とゼロさんの手に向いており、姫の御前で失礼かと思い俺は手を離した。ゼロさんは顔には出さないながらも、ちょっと残念そうである。


 「ふふふ……どうぞ。なんなりと申して」


 フリーになったゼロさんの手を姫様が握り直し、非常に嬉しそうである。俺としても彼女を取られて遺憾であるが、穏便に話を進める為に今だけはゼロさんを貸し出す所存である。


 「実は……空の彼方にある無の境界の中に、魔王城への入り口があるらしくて、どうやっていこうかと考えているところでして」

 「ほお」


 俺が天井を指さすと、みんなも視線を上げながら納得の息を吐いた。空に無の境界があることについては、みんなも薄々ながら気づいていたらしい。すると、ポンと右の手のひらを左手でうって、シエル王子が発案の姿勢をとった。


 「それならば、僕に考えがあるぞ」

 「本当ですか?」


 意外にも、海に住む人から、空についての問題に解答がなされた。すると、続けてグロウが挙手する。

 

 「いいか?」

 「なんだ?」

 「……」


 グロウはヤチャと顔をあわせてから、やや思慮深そうな態度で言った。


 「俺、もう話についていけねぇから、街に行って飯を食ってきていいか?」

 「いいぞ……」


 こういった会議は性にあわないらしい。グロウが退室すると同時、こういった難しい話に参加したくない同志であろうヤチャも部屋を出ていった。あれ……師匠?


 「……」

 「……」

 「……うむ」

 「……ど……どうぞ」


 俺に人差し指を立てて見せると、師匠も部屋を出ていった。すでに汗だくだくとなっている老人に無理をさせるのもなんなので、そこは普通に見送った。



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