第115話の1『橋渡し』
《 前回までのあらすじ 》
俺は時命照也。バトルものの世界に割となじんできた恋愛アドベンチャーゲームの主人公だ。紆余曲折を経てセントリアルまでは到着したものの、セントリアルの周囲は地面が崩れ落ちて先へ進めなくなっていた。ルルルたちが飛んで城へと向かってくれた中、森からは敵の魔の手が迫る。そこへ俺たちを助けに現れたのは……。
「失礼ですが……どちら様ですか?」
「シエルだ。王子の」
黒いカタマリの中から大きな目がのぞき、こもった声で名乗りが届いた。黒いドロドロで汚れているが、あれはシエルさんの……貝がらなのか。なぜ海の王子様が、こんな場所に1人でいるのか。黒い化け物がひよっている内を見て、俺たちはシエルさんに近づいた。
「ど……どうしたんですか?こんなところで」
「海から出て森を超えた先で化け物と戦ったのだが、このドロドロが取れなくて困る。かといって、触ると気持ちが悪いから取れない」
「はい。この黒い液体は危険と判断し、私の案で身をひそめてはおりますが、打開案が浮かばず申し訳ございません」
「……?」
シエルさんの貝の中から、シエルさんとは別の声が聞こえてきた。この声は……執事のルッカさんか。というか、そこまで大きくない貝の中に、シエルさんとルッカさんの2人が入っているのか。絶対に狭い。むしろ、よく入ったな……。
「ええと……ルッカさんもいるんですか?」
「ご挨拶が遅れまして、申し訳ございません。私、執事のルッカでございます」
「……勇者様。執事さんが、この中に?」
「らしいです……」
執事という単語にメイドのカリーナさんが反応した。なんとなく、メイドと執事って対義語か類義語のイメージあるけど、それぞれ存在を認知しているのだろうか。そんな俺の予想も、カリーナさんの一言にて否定された。
「執事様……お話には聞いておりましたが、この世に実在したのですね」
「執事さんって、セントリアルにはいないんですか?」
「おりませんのよ。残念ですが、カラード君はキチッとした服を嫌がりますもので」
カリーナさんの弟さんは街のアイドル的な存在なので、容姿も美しい女性と見間違うほどの端麗さである。さぞ燕尾服も似合うだろうが、それを断りながらも常に露出の激しい半裸の服装なのは疑問である。服の中が蒸れるのがイヤなのだろうか。
「のんびりしてる場合じゃないわ!やつら、また来るわよ!」
セガールさんの指さした方から、また黒い腕が迫ってきた。まだセントリアルから誰か戻ってくる様子はないし、貝がらから手足は出てるけどシエルさんも戦いにくそうだ。なんとか大地の亀裂を渡って、セントリアルへ行けないだろうか。そうして考えていると、現状についてシエルさんから質問を受けた。
「勇者よ。セントリアルは、どうしてしまったのだ?」
「なにやら、街の周囲が崩れ落ちてしまったようで……」
「渡そうか?」
シエルさんから、唐突に提案を持ち掛けられた。渡そうかって……何を?橋?橋っぽいもの……ああ!もしかして、それか!
「シエルさん!届きそうですか!?」
「僕の貝柱を信じろ!シェルピラー!」
シエルさんは武器として手に持っている棒を伸ばし、片方を森の中へと突っ込んだ。それが何かに突っかかったタイミングを見て、棒に捕まるよう合図を出した。
「皆の者!来い!」
カリーナさんやゴウさんは瞬時に理解したようで、グッと力を込めてシエルさんの武器をつかんだ。セガールさんは棒のこともシエルさんのことも知らないはずなので、俺が手を引いて強引に連れていく。
「……全力でッ!伸びろ!」
棒に捕まったまま、息もできないほどのスピードで俺たちの足は地面を離れ、ぐんぐんと森が遠ざかっていく。この調子なら、ガケを超えてセントリアルまで到達できるだろう。が……俺たちを捕まえようという勢いで、黒い影が棒をつたって来る!
「勇者……捕まれ」
風や棒の進む勢いに振り落とされそうな中、ゴウさんが俺の手をとってくれた。もうすぐ!セントリアルの街の入り口は見えている。そんな俺たちの体を、強い衝撃が襲った。
「……ッ!?」
体が何か、かたいものに叩きつけられた感覚。シエルさんのシェルピラーが折れまがり、俺たちは空中へとバラバラに投げ飛ばされた。黒い手は俺たちまで届いていない。これは一体……なんだ?
「うああぁ!」
第115話の2へ続く






