第35話の2『待機』
地下へと進んでいく道中、水浸しの場所でクツごと足が浸水してしまったものの、ここまできたら濡れても大して不快感がない。地上にいる間に少しは服も乾いたのだが、上から滴り落ちている大粒の雫が俺の肩を濡らし続けていて今更である。
それにしても、こんなところでエビ老人は何をしているのだろう。身に着けているヨロイはサビもなく美しく輝いているし、世の中からあぶれて身を隠している悲しい人ではないはずだ。そして、彼の名前を聞くのをすっかり忘れていた……。
「俺、テルヤです。あなたは?」
「我は……聞いて驚くな!マリエイア王国大王補佐官にして、海栄自営軍一番隊の隊長!エビゾーだ!」
「すごい!なぜ、そんな人が、こんな場所に!?」
「えっ……それはだな……まあ、我にしか務まらん役目があるのだ!」
彼の名前や役職が解ったものの、それ故にエビゾーさんの場違い感が際立った。こんな探り込みをしている俺とは関係なく、俺の後ろを歩いているゼロさんは全く名乗る様子がなく、未だに身分を隠す忍者っぽい気質は一貫していると見た。
そのままエビゾーさんは下へ下へと進み続け、すると洞窟然としていた道も次第に形を定め、壁も白銀色の金属でキレイに作られる。部屋の向こう側に黄金色のトビラが見える場所まで行き着くと、エビゾーさんは俺たちに立ち止まるよう言う。
「待て。我々も少し話をする必要がある」
「いえ、どうぞどうぞ」
我々……となると、この奥に誰かいるのだろう。エビゾーさんは赤いオーブを持ったまま扉の向こうへ行ってしまうが、オーブを持ち逃げされたところで相手に何も得はなさそうだし……それに加えて、どこの誰か持って行ったのかも解っている訳だから、返してもらうのも難しくないと思われる。
「……ゼロさん。寒くないですか?」
「勇者。寒いのか?」
「俺は平気ですよ」
服が水に濡れているせいか、陽が落ちて気温が下がったせいか、ちょっとだけ肌寒い。それでもゼロさんが寒いといえば上着を渡すつもりだったのだが、こんな濡れた上着では逆効果だろうか。
「私が魔法を使えれば、簡単に火をおこせるのだが……」
「いえ……俺だって魔法は使えないですし」
「……その代わり、この身体、勇者のために使いたい。助けてもらったのは嬉しかったが、足手まといにはなりたくない」
「ゼロさん……」
俺自身、戦闘力0なのに生き残っているラッキーマンであり、ありがたい言葉としては受け取りつつも……どこか騙しているような罪悪感すらある。実際、さっきだってヤチャを助けるどころか、何もできずにチームをバラバラにしてしまった始末。どこまでラッキーが続くのかを考えると、非常に不安で不安で今にも胃腸炎になりそうである。
「……おい!姫様の許しが出た。奥へ来い!」
ゼロさんとの会話に集中している内、エビゾーさんが扉の向こうから戻ってきた。『姫の許しが出た』というからして、魚人間のお姫様が奥にいるのだろう。俺は思考が恋愛ゲームの人なので、自然と人魚姫のような姿を想像してしまうが……まあ、今までの経験を踏まえれば、お魚っぽい顔のお姫様がいると思って違いないんじゃないでしょうか。
「失礼します……」
第35話の3へ続く






