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第113話の5『消しゴム』

 大きな白いもの。それは……見たままを言えばケースに入っていない消しゴムだ。レジスタの街の行く手をさえぎるかのごとく、壁のようなバカでかい消しゴムが俺の視界をふさいでいる。ボールペンの次は消しゴム、文房具シリーズ繋がりと見て、あれも魔王の差し向けた手先と考えられる。


 「く……くるぞ!」

 

 消しゴムが地面をこすりながら、ものすごい勢いでレジスタの街に迫ってくる。今、みんなは魔法が使えない。どうする?そう俺が考えを巡らせ始めたところ、俺の横目に虹色の光線が通り過ぎていった。


 「シャイニング・ゴッド・レインボービーム!」

 

 振り返ってみる。ルルルが両手で杖をかかげ、派手な光線を放っているのが見えた。ルルルの光線は俺に当たってはいるものの、こちらには熱さや痛みも伝わってこない。でも、それを受けた消しゴムはバリバリと砕けながら勢いを弱めている。


 「ルルル!なにか手伝おうか!」

 「お兄ちゃん……ジャマなのん」


 俺に出来ることは、ここから少し体をどかすことだけであった。消しゴムの接近は完全に防御できていたし、ぼろぼろと消しカスのようなものが散らばっている。消しカスは森や地面、空まで飛び散って、細かなチリが世界を白く染めていく。一見すると俺たちが優勢に見える。なお、俺たちの足元は既に消しカスだらけだ。


 「……ッ!」


 消しカスに触れてみる。それはくすみがかった灰色をしている。手触りは……硬くてザラザラしている。これは……ただの消しゴムじゃなくて、砂消しゴムのカスみたいだな。


 「シャイニング・ゴッド・ドリーミングショット!」


 ルルルの杖からボウンッと衝撃波が放たれ、それを受けた砂消しは完全に砕け散って消えた。後に残ったのはザラザラの砂っぽい消しカス。これだけは消えずに、レジスタへと雪のように覆いかぶさっている。


 「こんなにカスだらけになってしまって……かわいそうに」

 「お兄ちゃんの方が汚いのん……」


 確かに……俺の方が髪の毛までカスだらけで、手もザラザラしている。ルルルに拒否られてしまってので、代わりにヤチャの消しカスを落としてあげ……まだヌルヌルしているな。やめよう。しかし、あの消しゴムはなんだったんだろう。大きかった割には呆気なかったけど……あれ?


 「……?」


 レジスタの外の風景が、なくなっている。ガラスが曇っている訳ではないみたいだけど……外が灰色になっていて、木や森や山などが全く見えない。逆方向をのぞいてみても、やっぱり灰色の世界が広がっている。そうして事態を把握しようと頑張っていると、突如としてレジスタが大きく揺れた。


 「……いてっ!」

 「ハカセ!トマル!トマル!オチル!オチル!」

 「どうした?ツー」


 公園を囲っているガラスに頭をぶつけ、俺は痛さと足元の揺れに負けて尻もちをついた。キメラのツーさんから不穏な報せが聞こえていて、レジスタを襲っている地震も強まっていく。エレベーターが下へ降りるような、ふわっとした重力が体を襲う。街の最下層の方で爆発音がする。その衝撃で、俺の体は大きく浮き上がってしまった。


 「な……」

 「テルヤァ!」


 浮かんだ体が床に叩きつけられる寸前、ヤチャが俺を受け止めてくれた。結局はヌルヌルして取りこぼされてしまったのだが、なんとか直接的な落下は避けられた。他の人たちは……無事なようだな。でも、キメラのツーさんは唸り声を上げ続けている。


 「……ぐぐぐぐぐ」

 「テルヤ君。どうやら、レジスタが落ちたらしい」

 「落ち……え?大丈夫なんですか?」

 「恐らく、下側はツーやドロドロが支えてくれている」


 よろよろと起き上がってみる。レジスタは移動していないようだが、ややグラグラと揺れているのが解った。何かに邪魔されて、レジスタは飛行を続けられなくなり、地面へと不時着した。この状況、さっきの消しゴムのせいだと思っていいだろう。街の周囲を覆っている、この灰色のものはなんなのか。


 「外、どうしちゃたんだろう……」

 「無の境界」

 「……え?」


 ガラスの向こう、何も見えない灰色の世界に杖を向け、ルルルが小さくつぶやいた。


 「街が、無の境界に閉じ込められてる」



第113話の6へ続く

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