第113話の1『無の境界』
《 前回までのあらすじ 》
俺は時命照也。バトルものの世界に来てしまった、恋愛アドベンチャーゲームの主人公だ。なんとかかんとかレジスタの街へと辿り着き、識者の集まる会議に参加しながら、今後の行動に目星をつけようとしているところ。
「おい。ルルル。起きないか」
「むにゃにゃ……もう食べられにゃい……」
居眠りしている人の常套句が出た。実際、さっき満腹にしたばかりなので、リアリティのある夢を見ているのかもしれない。しかし、起きないな……いいや。俺の妹だし。勝手に取っちゃえ。
「……ええと」
これか?ルルルのスカートの浅いところに手を入れてみたら、なんだか珠とか砂利とか布とか紙とか、ちょっとぷよぷよしたものとか、べとべとしたものとか、さまざまな感触が手に当たった。これは四次元スカートなのか?俺は筒状になった紙を引き出す。
「博士。これ、霊界神様からいただいたものらしくて、絵みたいなんですけど……」
「ふーん。どれどれ」
巻いてある絵を広げて、円卓の真ん中に貼り出してみた。どっちが上で、どっちが下なのか判別もつかない絵だからして、ぐるっと囲んでいる現状は好都合である。絵は抽象的な画風で、近くで見ても遠くで見ても印象が変わらない。絵の内容といえば、水色のものの中に、何かが浮いている……もしくは、沈んでいるような曖昧な感じ。
「……ッ!」
絵画鑑賞をしている内、ローブをまとった白ヒゲの老人が立ち上がった。何か思い当たるものでもあるのだろうか?
「これは……お……」
「……?」
「オッポ!」
オッポ?なんだそれ?俺と同じ疑問を抱いたらしく、博士が俺の代わりに聞いてくれる。
「ガンコさん。それは?」
「私の息子の名前だ」
「……」
これに似ている息子さんとは、ぜひともお顔を拝んでみたいものである。ただ、どう見てもガンコさんの姿は人間で、どのような女性と結婚して子供を授かったとしても、こんな島みたいな姿のお子さんは産まれてこないと思われる。ここは一つ、アフリカンさんに希望を託す。
「アフリカンさん……これ、どうでしょうか」
「……とてつもない。綿密な、繊細な、手に取るように世界の一部を切り取ったもの」
やっぱり、これ……どこかの場所を伝えるべくして描かれたものらしい。それも、描かれたものの輪郭や、色彩の濃淡すら、実は緻密に計算されたものであるようだ。考え方によっては、これを地図と呼んだのも間違いではなかったかもしれない。それが解ったのであれば、この絵の正体も解明できる可能性はある。
「……これ……どこなのか解りますか?」
「魔力の在り方と、世界の在り方は密接である。不浄の魔力が満ち満ちれば世界は消える。魔力が消えてなくなれば、地盤が揺らぎ引き裂かれるであろう。現在、我々の立っている場所も然り。魔力が強まれば、空中にすら大地は生まれる。逆も然り。また逆も然り」
スキップした方がいいかな……そう考えて俺がペンダントを握ったところ、アフリカンさんが唐突に俺へと問いを投げかけた。
「無の境界。知っているか?」
「あ……はい。そこだけ、大地や海がないんでしたっけ」
「……無の境界の奥には、なにがあるか知ってるか?」
「……?」
何もないんだから、落ちていくんじゃないのか?俺、実際に落ちたことあるし。で、無の境界の底に頭を打ちつけて死んだ。あれ……言われてみれば、底があるのか?無なのに?
「無の境界の中には入れない」
「入れないんですか?」
「奥へ向かうと、見えない壁になっているのだ。だから、入れない。あれは汚れた魔力によって消された世界。何もないのだ」
となると、落ちた時は混乱してて解らなかったが、俺は無に頭を打ちつけて死んだのか。コンテニューしたから生きてるけど。でも、なんで急に無の境界の話になったんだろう。何か関係あるのかな。
「世界中を回ってきたが……おらは、この絵に描かれている場所を、この世界で見たことがない」
「……そうなんですか」
「よって判明する。この絵に描かれている場所は、おらが見た事のない場所だ。そして、絵の水色部分の魔力の散らばりからするに……この場所は、空にある」
アフリカンさんすら見た事がないなら、俺には探しようがない。そう落胆したと同時、アフリカンさんの言葉の続きをもって、言わんとすることが理解できた。
「ああ……そういうことか」
第113話の2へ続く






