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第112話の4『スタイリッシュ会議』

 「諸君。今、この世界に異変が起きている。意見を聞こう」

 

 円卓の一番奥に座っている毛深い男の人がライトアップされ、その人は大きな身振り手振りを交えて話題を振った。スポットライトが別の人物を照らし出し、本を広げている学者風の人が話を繋げる。


 「天まで届くほどの細長い物体が、大地より魔力を奪ったと推定……黒色の怪物たちも、同様の未確認物体が元凶と推定……」


 しゃべり終るとスポットライトは消えて、また別の人物がしゃべりだすと頭上のライトがつく。まどろっこしいので、部屋全体のライトをつければいいのではないかとも思うが、すると重要会議をしている感じがでない可能性もあるので、あえて突っ込むのは止めた。雰囲気は重視する。


 「あの……博士」


 現状の把握がてらにお話をうかがおうと、俺が博士に呼びかける。パッと俺の上からも光が降り、全員の注目が一斉に集まってしまう。


 「……テルヤ君。なにか?」

 「……あ……いえ」


 恐縮して黙り込んでいたら、発言する意思がないと見てライトを消された。いや……聞きたいことはあったんだけど、席についていないにも関わらず、すでに会議の一員に入れられていたことに動揺してしまった俺だ。しかし、会議の内容を聞くところによれば、すでにボールペンや黒い化け物の情報は入っていると推察される。


 「おい。おめぇら」


 俺の横にいるグロウが声を出し、ライトは彼をパッと照らした。なにか俺の代わりに聞いてくれるのか?グロウは俺とは違い、まったく臆せずに自分の欲しい情報を求めた。


 「まずいグロテスク焼きは?」

 「ひひ……ここにはない」

 「なんだと?」


 さっき居酒屋で会った老人が手前の席にいて、ここにグロテスク焼きはないと告げた。グロウは料理が出てこないと解り、拳をグッと握ると憤慨したとばかりに元来た階段へ戻ろうとする。


 「飯がねぇなら、俺は降りるぜ……ッ!」


 ガラガラとシャッターが降り、部屋の出入り口が閉ざされた。


 「何をしやがる!」

 「ひひひ……」


 怒っているグロウと、怪しい笑みを浮かべた老人がライトアップされる。続けて、部屋の反対側にある壁に光が当たった。


 「ひひ……一方通行。お帰りはあっち」

 「ああ」


 グロウは納得したのか、そちらの壁をすり抜けて去っていった。お店にはお金を置いてきたし、何か食べながら待っててくれるだろう。改めまして、俺とルルルは会議の内容に耳を傾ける。博士は部屋の中央にある画面を切り替えており、他の人たちが持ち寄った情報を交換しあっていた。


 「レジスタも崩壊の恐れはあったが、今は博士の友達や、ドロドロというものたちが繋ぎとめてくれている」

 「防衛隊が調査をすすめてはいる。世界規模での魔力の消失が障害となり、円滑に遂行されているとは言い難い」

 「セントリアルと合体すれば防衛能力は上がるが……我が街は崩壊の恐れがある。あちらへの被害は考慮せざるを得ない」


 パッパッとスポットライトが飛び交い、有意義な会議が進められていく。魔力を失ったレジスタの街が崩壊しそうになり、それをキメラのツーさんが自らの体で接着してくれているらしい。ドロドロっていうのはなんだろう……俺には解らない。


 「いかにも!現状を打破すべき術は、魔王を退けるに同意義!いかにも!いち早く勇者様にはオーブを全て集めていただきたい!いかにも!」


 いかつい黒ひげのオジサンが俺を指さし、話題が俺へと投げられた。パッとライトが俺の顔を照らす。


 「あ……ええと。オーブは大丈夫です。4つ集まりました」

 「いかにも!?」

 「いかにも……集まったら合体しちゃったので、今は1つのオーブですけど」


 ポケットからオーブの集合体を出し、円卓の上に置いてみる。スポットライトがオーブを照らし出し、まばゆいエフェクトを出しながらキラキラ輝いている。

 

 「おお!これが真のオーブの姿!」

 「非常に強い力を感じる……神の力と推定。強力なものだと推定」

 「いかにも!これがまさしく神のオーブ!いかにも!」


 オーブの登場に、拍手喝采であった。不安を露わとしていた人たちも、希望が見えたとばかり笑顔を見せている。あの人も、あの人も、きっとどこかの偉い人なのだろうが……それぞれ、どこの誰なのか。ライトに気づかれない小さな声で、俺は博士に尋ねてみた。


 「……皆さん、どちらの方々で?」

 「ああ。イカニモさんはレジスタ防衛隊の最高司令だ。スイテイさんは魔力学研究についての第一人者」

 「おお……」


 博士は相手を指さしてはいないのだが、名前でなんとなく誰なのか判別がついた。それ以外の人物も、レジスタ原住民の長だったり、武器開発チームの主任だったり、それなりに肩書のある人たちであった。

 

 「あの人は……」


 最後に、博士は俺たちより少し先に入ってきた老人を指さした。


 「あの人は……」

 「……」

 「……誰だろうか」


 事に重大な会議のはずなのだが、たまに知らない老人も紛れ込むという事実が発覚した。セキュリティの面で懸念が残る。


第112話の5へ続く

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