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第112話の3『はまってしまって』

 驚いた拍子に俺は壁の中へと入ってしまい、次に目を開いた時には面前に下り階段があった。振り返ってみる。後ろにはレンガで作られた壁がある。


 「……ルルル?グロウ?ヤチャ?」


 返事はない。俺、壁に入り込んだのか?なんで?料理を頼んだだけなのに。壁は叩いても揺れすらしない。閉じ込められた……いや、道は続いているのだから、閉じ込められてはいないのか。戻れないし、とりあえず進もうか。そう考えて階段へと向き直ったところ、ドンと何かに背中を蹴られた。蹴られた高さからして、この足はグロウだな。壁を抜けた際に気づかず、俺の背中を蹴ったらしい。


 「おお、来てくれたか」

 「ああ?まずいグロテスク焼きは?」

 「ここにはなさそうだぞ」

 

 このまま1人で進むこととなったら、それはそれは心細くていかん。グロウが来てくれたということは、待っていれば他の人たちも順番にいらっしゃるだろう。あ……来た。


 「……ああ、隠し扉なんな」

 

 ルルルだ。どうやら、体の一部を壁に入れると、グッと中に引き込まれるらしい。まずはルルルの手と顔が壁の向こうから現れて、次が頭や足で、最後が胴体。ルルルに言われて、これが隠し扉なのだと理解に至った。『まずいグロテスク焼き』をオーダーしたら、隠し扉に案内された。これは……あれだな。


 「まずいグロテスク焼きは、隠し通路への合い言葉だったみたいだな」

 「は?んじゃあ、まずいグロテスク焼きは?」 

 「そんなものは、ここにはない」

 「……おい!おっさん!聞いてないぜ!」


 店主へ苦情を入れようと、壁の向こうへとグロウが呼びかける。しかし、壁からはヤチャの顔だけが出ていて、なぜか笑顔で俺たちを凝視している。


 「ふははは……」

 「……?」


 ……ヤチャの顔は出ているのだが、それ以外の部分は一向に現れてこない。どうした?


 「ふはははは……はまった」

 「はまったのか……」


 ヤチャなら壁ごとお店を破壊できそうだが、それはお店の所有者ならび近隣住民の方々にご迷惑をおかけしてしまうし、下手をしたら俺もガレキに潰されて死ぬ。俺は広げた両手を見せながら、どうどうとヤチャを制している。


 「ヤチャ。暴れちゃダメだ……ステイ……ステイ」

 「なんだい?体が大きくて、つっかかっちゃったのか?困るねぇ」


 店主さんの声がする。あちらから見ると、おそらくヤチャは壁に頭だけつっこんで、巨体を居酒屋のオブジェとしていることだろう。店主さんの姿は見えないが声を聞くところによると、はまったヤチャを救助してくれる様子だ。


 「ちょっとね。ぬるぬるするもの塗るからね。冷たいけど気にしないでくれ」

 「うああぁ!ぬるぬるする……ぞぉ!」

 

 ぬるぬるしたものを塗って、摩擦を少なくしながらヤチャを取り出すらしい。ヤチャの顔の周りからはヌルヌルしたものが流れ出ているのだけど、まだまだ脱出には時間がかかりそうな見込み。


 「ヤチャ。俺たち、先を見てくるから、もし出たら師匠とカリーナさんに説明しておいてくれる?」

 「おおおおおぉぉ!」


 このままでは壁の前でオロオロしているだけで1話分が終わってしまうので、そろそろ下り階段の先へと話題を向けようと思う。そもそも、この居酒屋へ案内してくれたのはキメラのツーさんで、俺たちの目的といえば博士に会う1点である。この先に博士がいる可能性は高い。


 「よし。行くぞ」

 

 ヤチャに見送られ、薄暗い階段を一つ一つと降りていく。もっと長い階段かと思ったのだけど、30段も降りたら木でできた段差は終わった。階段の下には扉のない入り口があり、その奥に怪しい光のこもった部屋がある。


 「来たか。テルヤ君」

 「……?」


 円卓を囲んで、博士を含めた12人が座っている。卓の真ん中には青白い画面が映し出されている。これは一体……なんだ?

 

 「博士。テーブルにヒジをついて……顔の前で手を組んで……一体……」

 「ふっ……ようこそ。そう……ここが」

 

 部屋にいる全員が俺たちを見つめる。その視線の鋭さ……ただならぬ。これは……まさか!レジスタ最高機密的な、特殊機関的な……そういうやつ!


 「会議室だ!」

 「な……」

 「テルヤ君。ここは会議室だよ」


 会議室……いや、きっと最重要機密を会議する部屋なのだと……。


 「……会議室ですか?」

 「普通の会議室だよ」

 「……」


 すごく雰囲気のある……普通の会議室だ。



第112話の4へ続く

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