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第112話の1『おかずでお腹をいっぱいにするって幸せだ』

《 前回までのあらすじ 》


 俺は時命照也ときめいてるや。バトルものの世界に割となじんできた恋愛アドベンチャーゲームの主人公だ。魔王に洗脳された師匠を助け出し、巨大なボールペンや、それが放つ化け物たちを退け、なんとかレジスタの街へと辿り着いた。

 「俺、ここ入ってもいいのかな……」

 「ぬ?何か問題でも?」

 「いえ……」


 前に入った時は大勢でなだれこんだので誤魔化せたが、高校生の制服で居酒屋ののれんをくぐるというのは、絵面として微妙である。ですが、居酒屋というのはお酒を嗜む以外にも、美味しいおつまみや一品もの、温かな雰囲気を楽しむ場所でもあります。師匠が言う通り、ご飯を目当てに入れば問題ないでしょう。


 「おじゃまします」

 「あい」


 以前の居酒屋とは違って中はせまく、テーブル席とカウンター席をあわせても15人くらいで満席になりそうだ。カウンターの中に立っている強そうな人が亭主と見て、他には……さきイカっぽいものをかじっているおじいさんが1人いるだけ。お目当ての博士は……いなさそうだな。


 「なんか食おうぜ」

 「……まあ、せっかくだしな」


 カウンターの中で煮込まれている料理にグロウが興味を持ち、言われてみると俺もお腹が空いている。すごく空いている。いつぶりにご飯にありつけたものか、思い出せないくらい空腹だ。割と率先して、俺もカウンターの席へと座り込んだ。


 「お金は……あるかな」


 ポケットに入っているコインを全て出してみたが、その金額に関して俺は計算できない。きっとグロウとヤチャはお金を持っていないし、師匠も自我を失っていたから所持金は怪しい。適当にお金を出してみて、それでもらえるだけ料理を出してもらうことにした。


 「……これで食べられるだけください」

 「兄ちゃん……店の料理を全品、食うのかい?」


 マスターの発言から考えるに、思いのほか俺の手持ちは多いらしい。それは好都合とばかり、俺たちはお腹がいっぱいになるまで1品ずつ出してもらうことにした。まずは黄色いマメっぽいものと、お酒でない飲み物を出してくれる。


 「……うん。うまい」


 見た目はピーナッツっぽいかな。塩味がついていて、スナック菓子みたいにサクサクした食感だ。少し炒ってあるのか、マメ本来の味わいと香ばしさが口に広がる。飲み物は……水だな。しかし、輪切りの果物が入っていて、その酸味で清涼感が強い。


 次に出してくれたのは……卵焼きだろうか。ややオレンジ色。魚肉らしきものが巻いてある。しょっぱいが、味付けは適度だ。卵の甘さ。塩の味。お魚の淡泊さが混じると、口の中で凄く美味いものができあがる。芸術か。これは。


 「あい。お待ち」


 きた!揚げ物だ!唐揚げか?とんかつか?なんともいえない、微妙な大きさの、カラッとしたフライが差し出された。絶対に美味い。これは、食べる前から美味いに決まっている。アツアツを指でつまんで、ころもを歯で噛んでみる。食べた。美味い。醤油味の鶏っぽい肉。最高だ。ああ、最高だよ。


 「店長さん。ジャマするよう」

 「あいよ」


 飯の数々に舌つづみをうっている俺の後ろで、扉の開くガラガラという音がした。しゃがれた声からして、入ってきたのはお爺さんかな。その人はカウンターの近くまでくると、1品だけオーダーしてテーブル席の方へと向かう。


 「……まずいグロテスク焼きね」

 「あい。そっち、どうぞ」


 まずいグロテスク焼きって……料理の名前を聞いただけで、目の前の唐揚げの味に支障がでそうな名称だ。でも、食べる手は止まらない。次は串焼きだ。これもいい。


 「……満足したなぁ」


 それから2品くらい頂いて、炭水化物のたぐいを入れずにお腹をいっぱいにした。ここ最近の疲れが、体のサビが、食欲の満足と共にボロボロと落ちたような充実感。生きているって感じだ。


 「……」


 まだ、隣にいるグロウは口を動かしている。師匠は唐揚げの辺りで先に満腹となっていて、ヤチャは食い気が収まっていない。カリーナさんは……メイド服らしき姿のカリーナさん、居酒屋にミスマッチだな。


 「……?」


 そういや、まずいグロテスク焼きって、どんな料理だったんだろう。ふと気になって、テーブル席の方へと目を向けた。あっちに、先程のおじいさんが……あれ?


 「……いない」

第112話の2へ続く

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