第111話の6『再来』
遠くからでも解るほどの、超デカいものが空にズドンと浮いている。しかも、その外側にはドロドロしたものがまとわりついていて、両脇には黒くて大きな腕も生えている。あれは……いつか見た光景に似ている。
「……むう」
黒く染まったレジスタの街を見て、ヤチャが渋い顔をしている。というのも、あれとヤチャは過去に戦ったことがあって、かくいう俺も侵入して浄化を試みた憶えがあるからだ。でも、その元凶たるキメラのツーさんは今は俺たちの仲間だ。また街と合体しているとは、どうしたことだろうか。
「……お兄ちゃん。寄る?」
「う~ん……危なくないか?」
「じゃあ、ちょっと信号を送ってみるんよ」
追手も今のところはないようなので、俺たちは小高い丘のような場所に停止して空を仰いだ。不用意に近づくのも危険と見て、ルルルが杖の先を街に向けてピカピカさせる。
「……ルルル。近づいてきたぞ」
「たぶん、伝わってると思うんじゃが……」
光で合図を送ってみたところ、かなりの速度でレジスタの街は俺たちの方へと近づいてきた。空中に浮いているから轢き殺される心配はないはずだが、モンスターのような風貌なので威圧感がある。いやむしろ、大きな腕を左右から伸ばして、俺たちをつかみにかかっているようにも感じられる。
「勇者。逃げねぇ?」
「逃げよう」
『ままマまマテ!マテマテ!』
俺は瞬時にグロウへ同意を見せた。慣れた街への親しみよりも恐怖が勝って、俺たちは迫るレジスタの街から逃げ出した。直後、キメラのツーさんの呼びかけも聞こえてくるのだが、小さい体の時と同じ気持ちでじゃれてきたらと考えたら、それはそれで怖すぎる……。
「おわっ!」
柔らかな黒い腕に掴まれ、街の中央に大きく開いた口へと放り込まれた。死んだかもしれない……ぬっとした温かな体感に気持ち悪さをおぼえつつも、俺は暗がりの中で目を開いた。ここは……レジスタの住宅街だ。原住民の方々が驚き交じりの視線を俺たちに送っており、ひとまず食われて消火される恐れはないとして安心した。
「勇者よ!街ごと人々が化け物に取り込まれているぞ!そして、このワシも!」
「あ……大丈夫です。知ってる場所なので」
師匠はレジスタの街もキメラのツーさんも知らないので、大量捕食事件と勘違いして血相を変えている。ここがレジスタだとすれば博士がいるはずだ。なぜキメラのツーさんが街と合体しているのかも聞きたいし、みんなの魔力が消えてしまった理由も解るかもしれない。
「とりあえず、博士のところに行きましょう。えっと……たしか」
『コッチ!コッチココッチ!』
街の至る所には黒いものがこびりついていて、そこにはキメラのツーさんのものと思しき口がついている。案内してくれているのだろうか。声に導かれるかたちで、俺たちは家の並び立つ路地を進んでいく。道の先からは、またツーさんの声が聞こえてきた。
『コッチコッチ!』
キメラのツーさんの肉体が街の至る所に付着していて、ところどころで大きな肉片が道をふさいでいたりもする。その体のカケラそれぞれに意識を動かせるらしく、道なりにキメラのツーさんの声が案内を続けてくれている。博士の居場所は俺のマップにも表示されないので、ここはナビに従って街を進んでみる。
『コッチ!』
「……」
てっきり研究所へ向かうのかと思ったが、どんどんと道を下っているように感じる。灯りの少ない場所を歩き、次第に裏路地へ入っていく。ほんとに、こっちに博士がいるのか?
『ココ!ここヨ!』
「……ここは」
キメラのツーさんの案内に耳を貸して進んだところ……小さめの建物へ辿り着いた。ここは……こって。
「居酒屋だ……」
第112話へ続く






