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第111話の4『悪いけど、これは2人乗りなんだ』

 「ルルル。強く生きるんだぞ」

 「強く生きる為には、心に支えがないといけないのん」


 もっともなことを言ってみたら、ごもっともな回答を受けた。とはいえ、ルルルも霊界神様が宿っていた石像の頭が、今は意思を持たない抜け殻であると理解はしているらしい。神様から独り立ちするにあたり、むっくりした顔こそしているが、あれを失った寂しさについては飲み込んでくれたようである。


 「しかしよぉ。ありゃあ、なんなんだよ」

 「グロウ。まだ動くのか?それ」


 消えていったボールペンの残像を探しながら、グロウは倒れている魔導力車を助け起こしている。車の先頭についた竜の頭は目を光らせているし、車体はピカピカとした輝きを保ったままだ。あれだけの衝撃を受けても壊れはしなかったらしい。


 「んじゃあ。とりあえず……あいつらのとこ戻るぜ」

 「あぁ……うん」


 ボールペンが消えたと同時に影の化け物たちの出現も絶え、空や陸を黒く染めていた化け物たちも消え去っていた。しかし、いつボールペンが復活するとも解らないので、いち早く師匠やヤチャの元へと戻ると決めた。正直、魔導力車よりもグロウの方が乗り心地はいいのだが、本人は車を運転したそうな感じなので、そちらの都合にあわせて車に乗って戻る。


 「でも……どうして、みんな魔法が使えなくなっちゃったんよ」


 魔導力車が風を切って進む中、俺とグロウにはさまって乗車しているルルルが、直面している問題に疑いを向けた。この魔導力車は今も動いているし、魔力自体が世界から消滅したわけではないはず。魔法が使えなくなったのはヤチャ、師匠、グロウの3人であって、ルルルは神通力を保っている。いや……これはつまり。


 「なあ、ルルル。この車の魔力って……」

 「うんん。ちょっとだけど……神様の力を感じる」


 セントリアルから来た車に、十分な魔力が充填されている。すると、これはアマラさんの魔力で動いている可能性は高い。アマラさんは大賢者様の弟子だし、神通力も少しはもっていると見られた。魔力を享受して使用する者は魔法を奪われ、この世界から直に力を受けている者だけが技を使える。ここが、魔力の使えるか使えないかの境界線と考えていいかもしれない。


 「おお……テルヤァ!」

 「ヤチャ!無事か!」


 俺たちの姿を見つけ、ヤチャが腕をブンブンと振っている。師匠やカリーナさんも無事なようだが、グロウの作った小屋だけは見事に大破した模様である。まあ、一時的な避難場所としての建物であるからして、作成した本人にも特に未練はないと見られた。一晩の宿泊ではあったが、お世話になりました。


 「勇者様。精霊様。お怪我はございませんか」

 「はい。魔導力車は……ちょっと傷んだかもしれませんが」


 カリーナさんが駆け寄り、俺とルルルの身だしなみを整えてくれる。そして、魔導力車についても動作に不備がないか点検を始めた。なお、なぜグロウのケガを心配しないのかといえば、元からカリーナさんとの戦いで負傷している為であろう。変に言及すると再び挑戦状を叩きつけられかねないので、そこはスルーしておくに限る。

 

 「魔法が使えないみたいですけど……ヤチャ。師匠。飛べますか?」

 「……難しいだろう」

 「むぅ……りぃ……」


 ルルルとグロウは飛べるからいいとして、残るは俺と師匠とヤチャ……あとカリーナさんで4人。特にヤチャは体が大きいし、みんなで魔導力車へ乗れるものだろうか。


 「カリーナさん。これ、何人乗りの車なんですか?」

 「2人でございます」

 「では、ワシはいい」

 「オレサマも……いいぞぉ」

 「……?」


 乗車制限人数が2人と知り、すぐに師匠とヤチャは遠慮の気持ちを見せてくれた。でも、ここに2人を置いていく訳にはいかないし……そう俺が考えていたところ、単純明快な答えが師匠の口から出た。


 「己で走った方が早い」

 「ふははは……」


 ……合点がいった。

 

第111話の5へ続く

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