第110話の6『形見みたいなもの』
「ルルル。各地の神殿って?」
「この世界には赤と緑と黄色と青の神殿があって、魔力の循環を手伝ってるんよ。精霊がいれば、そう簡単には世界が魔王に壊されたりはしないって」
精霊様のイメージカラーから考えて、赤の神殿に向かったのはララさんだろう。黄色はロッロさん。緑はレーレさんが担当したと思われるが、青の神殿があるにも関わらず、なぜリリーさんは居残りなのか。青の神殿に行った方がいいんでないですか?
「青の神殿は海の底にあるから、絶対にリリーは1人じゃいけないと思うんじゃよ」
「なるほど……」
リリーさんが頼りにならないからじゃなくて、物理的に作戦決行が不可能なので居残りしているだけらしい。しかし、師匠も言っていたが……世界は本当に崩壊するのか。確かに、あのボールペンみたいなものは影の化け物を生み出していて、世界をゴリゴリと削ってはいる。でも、あれに世界を崩壊させる程の力が本当にあるのか。ないのか。
「おそらく……世界を書きかえる筆だ」
「……?」
師匠がつぶやいた。世界を書きかえる筆。ふと、ニュフフンさんと霊界神様が話していた、世界は改ざんされているという話を思い出す。あのペンが魔王の持つ能力なのだとして、世界を書きかえるほどの力を持っているとすれば、俺の存在を消してしまえば安泰である。
「……」
いや、この世界において、消せないものがあるとしたら、こんな回りくどい方法で俺を倒そうとしてくる理由となる。多分、この世界の根幹たる神の力についても、俺の存在と同様に一筆で書きかえることができないのだろう。
「ルルル。霊界神様は、他に何か言ってなかった?」
「あとは、任せたって」
もう、残されたのは俺の主人公としての力。勇者としての力。旅で出会った仲間の力だけ。近く、魔王とは最終決戦になるだろう。力の限り、あらがい打ち破る他ない。
「……そうそう。さみしくなったら、これを見るんよ」
「……?」
霊界神様の話をしている内に何か思い出したようで、ルルルは長いスカートの中へと手を入れてまさぐり始めた。霊界神様から託されたものでもあるのか。そう期待しながら見ていると、ルルルのスカートからはボウリングの球みたいなものが出てきた。
「……それは?」
「霊界神様の頭。最後に砕けたあと、残った場所を持ってきたのん」
なにかと思ったら……霊界神様が宿っていた石像の頭であった。ひびが入っており、薄暗い小屋の中で見たらホラーそのものである。それ、持ってきちゃったの?
「霊界神様。お兄ちゃんと、ちゃんと会えたんよ……」
霊界神様との別れが悲し過ぎたのか、石像の頭を抱きかかえながら語り掛けている。ちょっと……やめて。怖いから。
「ルルル……大丈夫か?精神的に」
「あ、うん。お兄ちゃんも使う?お話はできないけど、声は聞いてくれてる気がするんよ」
「そう……なんだ」
「精霊様。こちらへ」
カリーナさん……ドン引きするどころか、ルルルを抱きしめて落ち着かせてくれている。ビックリするほど動じない人である。誰かの体温を感じて気持ち楽になったのか、すっとルルルのまぶたは下がって、体から発されている光も弱まった。
「ルルルのこと。ありがとうございます。カリーナさん」
「いえ……お疲れなのでしょう。精霊様も」
ルルルの体を横にして、カバンから毛布を取り出してくれた。ただ、毛布は小さめなので体にかけようにも、霊界神様の頭が厄介である。
「……」
少し考えた末、カリーナさんは霊界神様の頭を、ルルルのスカートにしまい戻した。スカートにものが入っている原理すら不明だが、そこに入れられている霊界神様の気持ちも、俺にはお察しできない。
第111話へ続く






