第110話の5『意識の違い』
小屋の外観はキャンプ場のコテージさながらキレイなのだが、ドアまでは作れなかったらしく入り口には板が立てかけてあるだけ。中にも家具などはなくて、本当に木材を四角く組んだだけのようである。その割には床や壁にきしみすらなく、崩壊の恐れもなく安心して休めそうであった。
「グロウ。あれ……なんだ?」
「俺の寝床だ」
小屋には家具っぽいものすら何もないのだが、高いところに棒が1本だけ突きさしてある。その正体をグロウの寝床らしいのだけど、およそ人間から見ればベッドの要素0なものである。グロウはカラスの魔物なので、せまくて高いところにでも立ったまま寝られる。むしろ、横になったら眠れないのかも解らない。
小屋の広さは6畳くらいか。俺たちは1人1畳のスペースをもらって座り込み、ヤチャは床に腰をつけたと同時に爆睡を始める。小屋には窓はないのだが、ルルルの体が光っているから適度に明るさは確保されている。入り口が広く作られているのも、外から光を取り入れる目的からなのかもしれない。
「……」
俺も寝てしまおうかとも思ったが、折角なので色々と事情を聴いてみてもいいと考え直した。まずはグロウとカリーナさんについて。たぶん、大した理由で戦っていたわけじゃないのだろうが、気になるっちゃなる。
「グロウ。なんでカリーナさんに襲われてたんだ?」
「ああ?俺が襲ってたんだぜ」
「そうなの?刀3本やられてるのに?」
「そこは気持ちの問題だぜ」
女の人を襲ってる時点でアウトなのだが、返り討ちにされてすらいるので少しは恥じらいが欲しいところである。俺とグロウの水掛け論にキリがないと見て、カリーナさんが事の発端の説明をくれた。
「アマラ様が、グロウ様の居場所を探知されたのが昨日のこと。魔力保持者は光の矢を懸念して街の守備につかれましたので、お姉ちゃんが救助に来ちゃいました」
昨日はまだ、俺たちも大賢者様の元にいたし、師匠も四天王の一角を担っていた。もし俺たちが戦いに間に合わず、大爆発が起こってしまった場合を考えれば、それは正解だったのではないかと思う。それにしては、大賢者様の見せてくれた映像のセントリアルは和やかだった気もするが……それはそれで頼もしいとも言える。
「遭難者の捜索に時間は要しませんでしたが、グロウ様は木々の伐採と薪の作成に夢中で、街へ帰ることを了承いただけませんでしたので」
「薪の作成じゃねぇ。修行だ」
「そちらの提案と致しまして、稽古のお相手として務めを果たしたのちには、同行してもよいとお言葉を頂きました」
「稽古じゃねぇ。真剣勝負だ」
この2人、天然なのか解らないが……あまりお話が噛み合っていない様子。話を総括すれば、グロウはカリーナさんが強いのを知っていたから、倒して自信をつけるつもりで勝負を申し込んだと。以前、ゼロさんの持っていたスカウターで戦闘力をはかった際、不本意な数字が出たことも本件に絡んでいるような気がする。
「で……2人の勝負の結果は」
「まだついてねぇ。夜が明けたら、魔力も戻るに違いねぇし。したら、再開だ」
「ええ。存分に」
「女を倒したら、次は、てめぇを倒す。覚悟しておけよ」
やはり、師匠に負けたのが悔しかったようで、カリーナさんに続いて師匠にも宣戦布告している。なんとなくグロウの気持ちも解ったところで、息まいた彼も目を閉じて睡眠に入った。次に、ルルルにも霊界神様や精霊様の件を尋ねてみた。
「ルルル。起きてるか?」
「うん」
ルルルはカリーナさんの腕に抱かれていて、やや遠慮がちに体を寄せている。よくゼロさんの胸にも顔を押しつけているが、ルルルは女の人の胸が好きなのだろうか。なお、俺も好きなので、なかなか気が合うようである。
「今……精霊様たち、どこにいるんだ?」
「ララとレーレ、ロッロは世界の崩壊をくいとめる為に、各地の神殿に向かったのん」
「……」
神殿という単語は気になったものの、それよりなにより……もう1人、精霊様はいた気がする。ええと、リリーさんは?
「リリーは、この戦いについてこれないって言ってたから、聖なる泉に置いてきたのん……」
それは、なんだかバトル漫画っぽい会話が成された末の結論であった……リリーさん、一般人枠だったのか。
第110話の6へ続く






