第110話の4『疲労困憊』
「これ、地図じゃなかったのか……」
地図ではない。そうカリーナさんに教えてもらい、改めてルルルのスカートに入っていた紙を広げた。全体的に地図の端の方は青色に塗ってあって、中央には黒や茶色のグルングルンが描かれている。青色を海、黒や茶色を大陸だと俺は思っていたのだが……絵だとしたら、これは空を映している可能性もあるのか。
「このキラキラしたの、なんだろう」
「……どれだね?」
地図の青色の部分には、なにか解らないがキラキラした点々がついている。絵の描かれている紙を師匠に手渡し、それがなんなのか鑑定してもらった。絵を見ながら唸った末、師匠はキラキラの1つを指で押さえながら告げた。
「魔力だ」
「魔力ですか?」
絵に押しつけていた指の先には白い光が引っ付いていて、しばらくすると光は線香が消えるようにしてなくなってしまった。絵には魔法がかけられているのだろうか。絵の茶色や黒の部分には魔法がついておらず、ついているのは青色の部分だけ。これも意味があるのかな。
「それじゃあ、俺たちはセントリアルに行くので、グロウは適度に遊んでもらってください……」
「バッカ、おめぇ……俺が負けるかよ。あの高い城のある街だろ?すぐ追いつくぜ」
「お姉ちゃんも、すぐに追いつくわね」
一騎当千の強さで比べるならば話は別だが、1対1の戦いでグロウがカリーナさんに勝つのは難しい気がする。軽く痛めつけてグロウの頭を冷ましてあげて欲しいと思い、俺はグロウとカリーナさんの戦いをあえて止めずに出発を決めた。
「ヤチャ。すまないが……また頼む」
「おおおおおおおおぉぉぉぉ!」
またヤチャに運んでもらおうと考え、軽く肩に担ぎ上げてもらった。しかし、ヤチャの体から放たれる魔力の光は極めて弱く、蛍光塗料でも塗ったくらいにしか輝いていない。
「……ヤチャ。疲れたのか?」
「ううむ。オレサマは……疲れた……のかぁ?」
大賢者様の元で寝る間も惜しんで修行をして、モミアゲを探して……それから、黄色のオーブを持つ師匠と激突したのだ。飛行に際して使用する魔力の量など、俺には全く解らない。俺の尺度でいえば、全力でフルマラソンを走るくらいなのかな。なお、ルルルは力まずとも体が浮遊している。師匠に関しては、ヤチャより更に疲弊具合が酷い。
「ルルル……俺とヤチャと師匠を連れて、セントリアルまで飛べる?」
「無理な相談なんよ……」
「へっ!なさけねぇやつらだぜ。山の上に小屋がある。そこで寝てろっての」
あざわらうような表情を見せつつ、グロウはひねりながら右手を前へと突き出すのだが……その中二病全開なポーズのまま、なんにも起きないのである。何をしようとした?
「……?」
「へっ!てめぇらは、山の上の小屋で寝てな!」
都合が悪かったのか、グロウが勝手に仕切り直した……再び手を押し出すが、やっぱり何も起きない。もしかして、グロウも魔法が出ないのか?
「……グロウ。調子が悪いのか?」
「……ふーん。俺も、調子が悪いみたいだぜ」
カリーナさんは体ほどもある大きな包丁を構えているが、魔法が出ない事には勝負も始まらない。みんなも疲れているのだろう。夜の訪れも懸念されるし、移動や戦闘の続行は諦め、俺たちはみんなでグロウのいう山頂の小屋へと向かう事にした。山頂に近づいても、まだ地面には結界の光が灯っている。
「ここまで結界は届いてるみたいだな」
俺が地面から視線を上げると、山頂に立っている立派な小屋が見えた。これは、セントリアルの施設なのか?
「カリーナさん。これ、使っていいんですか?」
「いえ、お姉ちゃんには権限がございませんので」
……じゃあ、この小屋はセントリアルのものじゃないのか?だとすると……俺は残された可能性をふまえて、グロウの顔を見た。
「……」
「俺が作った」
「……マジか」
……転職した方がいいんじゃないか?マジで。
第110話の5へ続く






