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第34話の3『遭難』

 静かだ。目を開けると、岩の壁と空の色が半々ずつ見える。よく耳を傾ければ、海を風が撫でる音も聞こえる。少しだけ体に痛みはあるものの、ケガはないらしく動かす分には問題ない。ただ、黒い制服は海の塩にまみれていて、もはや白い部分の方が多い。


 俺が寝ていた場所はゴツゴツした岩場の上で、立ち上がってクツの中に入った水を流し出してみる。すると、近くの岩陰から石の転がる音がした。敵か?手元の近くにあった石を武器がわりに持ちつつ、何が出てくるのかと身構える。


 「……ああ、勇者。目が覚めたか」

 「……ゼロさんでしたか」


 岩陰から顔を出したのはゼロさんで、その手には小さな石ころのようなものが幾つも握られている。


 「他の人たちはいないんですか?」

 「すまない。近くに見えた勇者を運ぶだけで精いっぱいだった」

 「また助けていただいて……ありがとうございます」


 ゼロさんの口ぶりからするに、俺は気絶したまま、ここまで運ばれて生き永らえたらしい。仙人とヤチャは飛べるからいいとして、気絶した同志であるルルルは無事だろうか。まあ、仲間のことは心配ではあるが、まずは最も弱い自分の心配をすべき状況やもしれない……。


 にしても、ここは何処なのか。海面から岩場が迫り出しており、上側だけが割れた卵の殻を少し海に沈めたような地形である。見渡せる限りの水平線には水の噴き出しも見えず、かといって向こう岸と呼べるものも全く見えない。それだけ遠くまで飛ばされたらしい。まいったな……。


 「勇者。空腹を感じてはいないか?」

 「何かあれば助かりますが……」


 お腹が空いているのは間違いないけど、こんな場所で食べるものがあるだろうか。そう考えていると、ゼロさんは俺に石ころみたいな何かを差し出した。これは……なんだろう。


 「そこで採った。コブシ貝というものだ」

 「頑丈そうですね……」

 「先端を叩くとキレイに割れる。まだ生きているから、生で食べられる」


 いただいたものは黒っぽい楕円形の貝で、大きさは俺の握りこぶしよりも少し小さい。言われた通りに細くなっている部分を岩へぶつけると、そこから殻が二つにパッカリと割れた。生ガキの要領で中身をスッと吸い込んでみるが、あまりに苦くて咳が出た。


 「うっ」

 「すまない。肝を取らなくては。この部分だ」


 むせかえりつつも俺は海に面して座り込み、しゃがみこんだゼロさんが俺の持っている貝から黒い肝を取ってくれる。レジスタの街ではルルルの世話をしていた俺なので、お姉さんに優しくしてもらうのは逆に新鮮である。


 2個目の貝をいただく。肝を取り除いたコブシ貝は砂利つきもなく、噛むと中からミルキーな味わいが染み出してくる。それに薄い塩味が乗っていて、なんだかスープを飲んでいるみたいな、和やかな気持ちになる……。


 そうして貝を3つほど食べたところ、途方に暮れそうだった俺も元気を取り戻した。なんとかして、この行き止まりから脱する案を立てないと。ひとまず、船でも通りかからないかと思い、俺は岩場を登って高い場所から周りを見渡してみた。


 「勇者。危ないぞ」

 「危険を顧みないのが勇者ですとも。助けを呼んでみます」


 などと強気なことを言ってみるが、やはり周囲の全方向、遠い景色にも陸地は見えない。しかし、風はある。風下へ向かって叫べば、助けを呼ぶ声が遠くまで響くかもしれない。うまくいく見込みはないが、やらないよりはマシだろう。


 「おーい!おーい!」


 遠くには夕日が見えており、その位置から考えて村の方向にも見当がつく。俺は呼吸を整えると再度、そちらに向けて叫んでみた。


 「おーい!おーい!」


 前にも思ったが、やはり海は広くて大きい。俺の声は薄暗くなっている海と空に吸い込まれ、波の音にかき消された。う~ん……ダメか。ゼロさんの元まで戻ると、俺は腕を組んで岩にもたれ座り込んだ。


 「どうしたものか……ん?」


 悩み始めた俺の尻の下で、なにか物音がした。なんだろう。俺が立ち上がろうとした……その時、尻の下にあった岩がボンと音を立てて地中へ落下。俺も一緒に地下へと飲み込まれた!まずい!落ちる!


 「勇者!」

 「うわああぁぁx!」


第35話の1へ続く

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