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第110話の2『無益な戦い』

 「ゼロさんはセントリアルにいるんだけど……カリーナさんの方が場所としては断然、近いな」

 「でも、ゼロちゃんに会いたいのん……」


 師匠の元へ向かう際、ルルルはララさんと交代になったからな。そんなに時間は経っていないとはいえ、俺たちが離散した話をララさんから聞いて心配しているのかもしれない。


 「う~ん……どうしようか」


 ルルルのもらった地図が特殊なものでない限り、カリーナさんなら見方を知っているだろう。でも、仕事中だったらジャマになりそうだし、結局はセントリアルにゼロさんを迎えに行かないといけない。ゼロさんの名前と居場所も見つけはしたが……どちらへ向かおうか。


 「ルルル。そういや……カリーナさんにお礼、言ってなくない?」

 「実のところ……カリーナさんって誰なのん?」

 「だれ……だぁ?」

 「ほら、精霊山に一緒に行った。なんっていうか……お母さんみたいな人いたじゃん。あの人」

 

 同行した期間が短かったせいか、ルルルもヤチャもカリーナさんを憶えていなかったし、師匠が知らないのは当然の事である。万が一、危険な目にあっていたら……いや、あの人に限ってピンチになっている姿は想像もつかないが、あいさつがてらに情報収集していくのは得策かと思う。


 「師匠。セントリアルの街の場所が解りました。途中、少し寄り道してもいいですか?」

 「いいぞなもし」


 ワールドマップを確認しつつ、俺はヤチャに行き先を示していく。カリーナさんの居場所は近くの山頂付近だと思われるが、そちらへ近づいたところ……急にズドンと森の中で大きな音が鳴り響いた。なんだ?


 「勇者テルヤよ。あれ……ワシとの戦いについてきていた、カラスではない?」

 「カラス……」


 師匠が指さす方へ視線を動かす。森の木々がバサバサと面白いように切り倒されていき、山が一直線に禿げあがってしまう。あれもグロウがやってるのか?修行?でも、なんでカリーナさんとグロウが同じ場所にいるんだろうか。とりあえず、警戒しつつ地面へと降りていく。すると、またしても影の化け物が地面から飛び出してきた。


 「……また来たんよ!うむむ!」


 神の力の使い方に慣れてきた様子で、ルルルが光の球を杖から落とす。あっという間に影の化け物は姿を消し、同時にキラキラとした白い雨が降り始めた。それは地面や木々に輝きを与えていく。


 「ルルル。あれ、なに?」

 「結界。これで、しばらくは大丈夫」

 「ぐああああぁぁ!」


 影の化け物が出てくる様子はなくなったものの、その代わりに森の中から何かが叫びながら飛び出して……飛ばされてきた。咄嗟に師匠が両腕でキャッチしてくれる。


 「ぐっ!」

 「おぬし、どうした。誰にやられた!」

 

 森の中から飛ばされてきたのは、人間の姿のグロウだ。すぐにグロウは師匠の呼びかけで目を開くが、師匠の顔を見てすぐさまカラスの姿になり距離をとった。


 「誰にやられたかって、おめぇだよ!おめぇ!忘れはしねぇ!」

 「ワシもモミアゲを失い、正気を保てなくなっていたのだ。手加減できず、すまんな」


 前に一度、俺も含めて師匠にやられているのは確かだが、問題は下でグロウが何と戦っていたかである。返答次第では、カリーナさんも危険だ。


 「グロウ。何と戦ってたんだ?」

 「ああ?あいつ、ヤバいぜ」


 俺の質問に対して、真っ先に『ヤバいぜ』とかいう単語が出てきた。今現在、影の化け物よりヤバいやつはいない気がするが……何がヤバいというのかね。


 「カリーナとかいうやつなんだがよ。あいつ、ヤバいぜ。この俺が苦戦してやがる!」

 「なんでカリーナさんと戦ってんだよ……」

 「グロウ様ー。お戻りくださいー」

 「下で呼ばれてるぞ……」

 「こっちは今、勇者と話してんだ!ちょっと待ってろ!」


 姿は見えないが、森の中からカリーナさんの呼ぶ声が聞こえている。確かに、グロウの戦っている相手はカリーナさんらしい。どんな理由かは知らないが、きっと無意味な争いなので、なだめておこうと試みる。


 「なんか悪い事でもしたんだろ。一緒に謝ってあげるから、諦めようぜ……」

 「俺から持ち掛けた勝負だ!まだ軽傷だ!やれるってんだよ!」


 できるかできないかの話ではないのだが……まだ懲りずにやるらしい。カリーナさんに殺意がないからか、グロウの体に傷などは見当たらない。ケガする前にやめた方がいいと思うんだけど、どうしたものか。


 「もういいだろ……やめとけって」

 「俺はやれる……体も動く」

 「……」

 「まだ……刀が3本、折れただけだ。やれるぜ」


 それなりに重症じゃねーか……やめとけ。


                              第110話の3へ続く

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