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第109話の4『終わりの始まり』

 熱い煙と光が頭の中まで満ち満ちて、目を開いているのに何も見えなくなった。生きるか死ぬかの戦いにおける緊張が解け、不意に思考も停止した。視界の奥に、ぼやっとした影だけが見えている。それが崩れ落ちるようにして倒れた。しゃがれた力ない声が、俺の耳にザワッと入ってくる。


 「……見事だ」


 背景の切り立った黄金の岩、その裂け目、ゴツゴツとした岩の質感。世界が輪郭を取り戻し、仰向けに寝転んでいる師匠の姿が見えてくる。戦いが終わったと見て、ヤチャが俺の隣まで歩み出してくる。勝った……勝ったんだ。やっと実感が湧いてきた。それと同時に、当初の目的を思い出す。


 「あっ……そうだ。オーブ」


 師匠の横には黄色のオーブが転がっている。それを手に入れるべく、俺は魔力でできた地面の上で、じりじりと足を動かしていく。そうしていたところ……俺の横を何かがビュンと飛んで通り過ぎていった。


 「……うわっ?なんだ?」


 ヤチャの肩に乗っていた師匠のモミアゲがミサイルのごとく飛び、師匠の右側の耳元へと引っ付いた。モミアゲがうごめき、その痛みに師匠はもだえている。ヘビにでも噛まれているように見えるが……実体は自分のモミアゲを植毛されているだけである。


 「うう……ううおおおおぉぉ!痛み!生きている!痛みぃ!」

 「お……お師匠様あぁ!」


 ヤチャが師匠の元へと駆け寄り、背を支える形で上半身を起こしてあげた。俺も黄色のオーブは置いておいて、まずは師匠の介抱にあたる。


 「……テルヤァ!どう……するッ!」

 「と……とりあえず、困ったときは応援だ!」

 「お師匠様ァ!がんばれェ!」

 「しっかりしてください!」


 体をビクビクと痙攣させていた師匠が、カッと大きく目を見開く。また攻撃を仕掛けてくるのではないかと俺とヤチャは後ろに飛び退くが、すぐに師匠は瞳を閉じ、一転した穏やかな視線で俺たちを順番に見つめた。


 「……強くなったな。テルヤ。ヤチャ」

 「お……お師匠様あああぁぁぁぁ!」

 

 涙と汗と、なんか色々を飛び散らせながら、ヤチャが師匠に抱き着いていく。黄色のオーブに捕らわれていた師匠が元に戻り、やっと師弟が感動の対面を果たしたのだ。なお、俺は師匠について詳しく知らない為、この場はヤチャに任せるとした。このすきに、足元に転がっている黄色のオーブをひろいあげる。


 「これが黄色のオーブか……」

 「……ッ!テルヤよ!お前、いくつのオーブを持っている!?」

 「……え?うわっ!」


 黄金色をしていた地面が黒く汚れ、ボロボロと灰のように分解を始めた。俺のポケットに入っているオーブが、黄色のオーブに共鳴して輝いている。これは……。


 「避難じゃ!ヤチャ!テルヤ!」

 「避難……だぁ!」


 ここには立っていられないと見て、先導する形で師匠が空中へと蹴り出す。すぐさま、ヤチャも俺の体を抱えて飛行を開始した。俺の服から飛び出たオーブが合体していく。俺の手の中に4つのオーブはなく、気づくと虹色に輝く宝石が握られていた。


 「な……なんだ?これ」

 「オーブが、真の力を取り戻した。それこそが、神の力を秘めし、神々のオーブ」

 

 そうか。これがオーブの本当の姿なのか。だとしたら、本来のオーブは神様のもので、魔王によって散り散りにされたものだったのだろう。そう合点がいったと同時に、地平線の彼方まで広がっている世界の不気味な色を目の当たりとした。


 「世界が……黒くなっていく」


 森が、大地が……どんどんと黒ずんでいく。これは……なんだ?俺は師匠に視線を向けた。


 「師匠……これって」

 「勇者が最後のカギを手にし、魔王の城への道が開かれる。それを魔王は、恐れているのだ」


 よほど魔王は、俺に会いたくないらしい。地面からは魔物か何かも解らない、大きな影のようなものが浮かび上がってきた。黒く汚れた地面や森が、その化け物になぎ倒され、世界を見境もなくメチャクチャにしようとしている!


 「あれは……」

 「魔王は勇者の侵入を拒むだろう。この世界を破壊してでも」

 「……」


 なぜ、そんなに嫌われているのか……俺、何かしたかな。そう考えてみたが、この旅の中だけでもたくさんありすぎたので、俺は理由を探すのをやめた。


                                 第109話の5へ続く

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