第109話の3『合体奥義』
前に師匠と戦った時と同じだ。師匠の後ろには巨大なガイコツらしき影がチラつく。光の渦が俺の視界を脅かし、目を回したかのように意識が揺らいていく。現状、師匠の目標は俺に向いていて、それを俺は直に受けている。ただ、魔力に触れる練習をしたせいか、未知なるものへ触れるような恐怖は感じられない。
「……ヤチャ!俺を撃て!」
「おお!ん……んん?」
「ごめん!俺を殺さないように、俺を撃って師匠を撃ってくれ!」
「……お……おおおおおおおおおおぉぉぉ!」
師匠を倒す方法について、ヤチャは気づいていなかったらしい。ヤチャが与えられた試練は、岩を壊さないようにしながら、全力で魔力を放つというものだった。その一方、俺は1人で水の上に立つだけ。つまり、ヤチャが全魔力をもって俺を撃ち、勇者の力をまとった魔力弾を師匠にぶつける。それが四天王である師匠を倒す、唯一の方法だ。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!ふうううううぅぅ!」
「……」
後ろからはヤチャの気迫を込めた叫び声が聞こえ、正面からは無言で俺たちに手を向ける師匠の凄みを感じる。風の音がする。次第に空気の摩擦による音が大きくなり、一瞬だけ世界から音が消えた。耳がおかしくなったのではないかと動揺し、俺が一時だけ目を閉じた。突然の爆音が耳に入り、激しい光が俺の前で衝突した。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
叫びと共に放たれたヤチャの魔力は俺の体を貫通し、虹色の輝きを秘めた光線となって流れ続ける。俺に痛みはない。それが師匠の手から出ている光とぶつかり、水しぶきのように魔力の粒が飛び散っている。互角か?いや……こちらが押されている!だけど、それは予想の範疇だ!俺のペンダントが、ヤチャの魔力と共鳴して輝きだす。
『勇者は能力・『引き立て役』を発動した!』
「ヤチャ!いけえええええ!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
これが、俺が修行の中で会得した、新たな勇者の能力だ。この世界に来てからというもの、俺は主人公として人一倍の活躍をしなければと意気込んでいた。でも、よくよく考えてみれば……恋愛アドベンチャーゲームの主人公なんて、ゲーム画面内で顔すら映らないような存在だ。一部の例外をのぞけば、パッケージに映ることだってマレだろう。そして、そんな主人公に代わって真に魅力を発揮するのは、他のキャラクターなのだと気づいたのだ。
俺の存在感をなるべく薄く……薄くしていく。その分、他の人物の力を引き上げていく。俺だけでは師匠を倒せない。ヤチャだけでも師匠は倒せない。半人前同士をあわせて、一人前を超えていく!魔力が放つ光の中で、師匠の顔がわずかに曇るのを見た。
「……おおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
「……ぬるい」
「……?」
「ぬるいッ!それしきで、ワシを超えられるものかあぁぁぁぁぁぁ!」
師匠は魔力を放出している腕に、もう片腕をそえて構えた。ズンと音がして、師匠の魔力の攻撃力が跳ね上がるのを感じた。
「ううううぅぅ!テルヤアアアァァァァァl」
押されている。もう、師匠とヤチャの魔力の境目は、俺の目の前まで来ている。あれが俺に到達すれば、その時点で俺は死ぬ。勝ち目はなくなる。
「ふぬううううううううううううううううううううう!テルヤアアアァァァァァ!」
ヤチャはケガした腕で頑張ってくれている。すでに全力だ。あと俺に何ができる?勇者の能力も、これ以上は効果を上げられない。どうする……。
「……ッ!」
俺が姿勢を正そうと、微妙に体を動かした。すると、俺を貫通しているヤチャの魔力が、やや威力を強めたように感じられた。なんだ?いや……解ったぞ!俺だ!俺こそが、攻撃するにあたってジャマになってるのか!
「よし……」
俺は腕や足の位置を変え、試行錯誤を始めた。ほんのわずかにでも、ヤチャの魔力が俺に当たって、威力を弱めているとしよう。だとしたら、それをできるだけ阻害しない姿勢。それを探していけば、あるいは……。
「……」
己の感性に任せて動き、俺は足を前後に出して屈み、右手は頭の後ろへ。左手は腰に当てる。これは……オトナリの村でヤチャが教えてくれたポーズに似ている気がする。そのポーズをとったところ、ヤチャの放つ魔力がグングンと威力を強め、炎のような赤い色へと変化を始めた。そうか……これだ!勇者の必殺技。それを俺は思い出し、背後にいるヤチャへと告げた。
「そうか……ヤチャ!行くぞ!合体技だ!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「ぬぬ……なんだとッ!」
「師匠!これが、俺たちの全力だ!くらえええええええぇぇぇッ!」
ヤチャの魔力が師匠の魔力の光線を飲み込み、ドドドドドッと小さく爆発を始める。それが師匠の体へ当たる。重たく響く音を立て、大きな炎の球が作り出される。そして、それは天を焦がすほどの大爆発を発生させた。俺とヤチャは攻撃に最後の気合をこめるようにして、必殺技の名前をノドから吐き出した。
「「奥義・爆裂弾!」」
第109話の4へ続く






