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第109話の1『空中散歩』

   《 前回までのあらすじ 》


 俺は時命照也ときめいてるや。バトルものの世界に割となじんできた恋愛アドベンチャーゲームの主人公だ。魔王に囚われた師匠を助けるためには、失われし師匠のモミアゲを探し出さなければならないと解った。俺たちは故郷であるへイオンの村を訪れ、豚の魔物から師匠のモミアゲを奪還した。

 「……2人とも、もう行くんだな?」

 「俺、約束の30分前には到着してる主義なんです……」


 新・魔王城、それと豚の魔物の野望を打ち砕いたばかりではあるが、俺とヤチャは出発の用意を始めていた。なにせ、モミアゲによって向かう方角こそ解れど、どれほどの距離なのかまでは教えてくれないからである。辿り着いたところで、また試練っぽいものを受けさせられる可能性も否めない。知っている場所があれば途中で休めるだろうし、とにかく早めに出発した方が賢明と思われる。


 「ヤチャ。忘れ物とかないか?」

 「……忘れていた……ぞぉ!」


 ヤチャは俺にモミアゲを手渡し、崖際まで走っていった。高い所に立ってズボンを脱ぎ、用を……いや、これは詳しく説明しなくていいか。俺は重たいモミアゲを肩に乗せて担ぎながら、空いている片方の手でウライゴさんに握手を求めた。


 「師匠は必ず、俺とヤチャで助けます」

 「頼む。僕は自分のできることを精いっぱいやるよ」


 ウライゴさんの手は指も細いのだが、それにしては手のひらがゴツゴツとしている。手にマメができるくらい、弓や武器の練習をしたのだろうか。それでも勇者にはなれなかったのだ。彼の気持ちを受け取り、俺は戻ってきたヤチャの腕に乗り込んだ。


 「……ヤチャ、手は洗ったか?」

 「ふふふ……洗ってない」


 まあ……別にいいか。俺とヤチャはウライゴさんやゲンサンさんに手を振って、大空へと飛び立った。俺はヤチャの腕にガッシリと抱え込んでもらってはいて、いやむしろ苦しいくらいなのだが……気を抜くと滑って地面へと真っ逆さまになりそうだ。俺は高所の恐怖を唾と共に飲み込みながらも、頑張って雲越しの地上を見下ろしつつつ到着を待った。


 『……こっちだ……こっち』

 「こっちらしいぞ」

 「こっち……ふはは」


 俺の持っているモミアゲが動き、それにあわせてヤチャの飛行をナビする。無の境界……底知れない大地の裂け目を超えた先には倒壊したパワーアップの塔があり、それをたどっていけばワルダー城に行き着くのだろう。でも、今回は別の方向へと飛行を続ける。


 「……ッ!?」


 突然、師匠のモミアゲが身震いを始めた。なんだ?


 『勇者……試す……近づけさせない』


 モミアゲ氏とは少し違う、師匠に近い声が脳内に響いた。次の瞬間、俺の目の前は真っ白に染まり、バリバリと音を発しながら何かが突っ込んでくるのを感じた。ヤチャは飛行のスピードを落とさず、それを寸でのところで回避してくれる。


 「……なんだったんだ?」


 俺たちの横を通り過ぎていったものは、ガラスを割ったような音を立てて散り散りになる。そして、『来い』という文字を作り出した。あれは……やや小さいながらも、レジスタを襲った光の矢と同じだ。頭の中に聞こえてきた声とあわせて考えても、師匠からの再戦の果たし状と見て間違いない。


 「……ぬッ!」


 1分後、再び大きな光に襲われた。マバタキをする間すらなく、それは俺たちの体を捕えた。しまった!


 「うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 咄嗟にヤチャが片腕から魔力砲を放ち、光の矢とヤチャの魔力がぶつかって爆発。俺はヤチャ共々、ぐるぐると宙に投げ出されて回転している。ヤチャは空中で踏みとどまってくれたが、乱暴な回転を受けて俺は脳震盪でも起こしそうな状態だ。


 「……うう。ヤチャ。大丈夫か?」

 「おおおおおおぉぉぉぉ!」


 目を回している場合ではない。なんとか気を取り直す。モミアゲは……ちゃんとある。それを確認した直後、俺はヤチャの片腕が真っ赤になっているのを知った。


 「お……おい!大丈夫か!?」

 「おおおおおぉぉぉぉぉ!」


 それは……痛いのか?大丈夫なのか?ともかく、ヤチャは再び超高速で飛行を開始した。師匠の居場所は近いのか?もし、また光の矢が来たら……俺の心配を察知したかのように世界が止まり、目の前には選択肢が表示された。


 『1・左に避ける 2・右に避ける 3・ヤチャに叫ぶ 4・腕から飛び降りる』


 俺が文章に目を通している。そのメッセージウィンドウの向こうには、今そことばかりに光の矢が迫っていた。


                                第109話の2へ続く

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