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第108話の3『いつもの3人』

 おっさんみたいな顔の城……いや、城らしきおっさんかもしれない。かなり遠いのだが、頭頂部が剥げていることや、口を大きく開けているのは見て解る。全体的に緑色なせいで、それも気持ち悪さに拍車をかけている。


 「行く……ぞぉ!」

 「……?」


 目標を補足したとばかり、ヤチャは発光しながら宙へと浮かび上がった。城の大きさはワルダー城ほどもない。城の方が落ちてきてくれる気配もないし、だとするとヤチャに飛んで行ってもらうのが早いのも確かだ。ウライゴさんは浮き上がったヤチャに驚き、俺のそでをつかんでいる。

 

 「浮いた。ヤチャが浮いたぞ!」

 「浮いたより先に、さっきから光ってたんですが……」


 いや……この短期間でヤチャが3等身マスコットキャラから、筋肉ムキムキお兄さんに変貌したことにも、もっと驚いて欲しかった次第。だが、ちょっと待てよ……。


 「あの……ウライゴさん。人が浮くって、普通じゃないんですか?」

 「普通なことかよ……テルヤ。君は僕の知らない世界を見てきたんだな」

 「そ……そう……ですね」


 俺の周りだけでも、仙人やヤチャやルルル、サーヤ姫やアマラさんは当たり前のように空を飛んでいたし、レジスタの街なんて謎の浮力で街ごと浮いていた。だから、もう人が空を飛ぶ事に慣れてしまって、俺は一般的な感覚を失っていたのかもしれない。そもそも、魔法を使える人って、どのくらいいるのだろうか。


 「じゃあ、魔法は?ヘイオンの村で使える人は、どのくらいいるんですか?」

 「父さんと……霊媒師のババ様と、あと数人くらい。多くはない」

 「それで戦えるんですか?」

 「戦うだなんて無理さ。せいぜい、傷をいやすか、焚火に火を起こす程度だ」

 

 魔法で戦えるだけでも、それなりに高いレベルの魔法使いなのだと初めて知った。改めて最初の街に帰ってきたおかげで、この世界について1つ理解が進んだ気がする。


 「テルヤァ!」

 「……よしっ!行くぞ!」


 俺がヤチャの背中にしがみつく。その後ろから、ウライゴさんが俺とヤチャに呼び掛けた。


 「テルヤ!」

 「……?」


 ヤチャが飛び立とうとした直前、ウライゴさんが俺に手を伸ばした。今から師匠……もとい、自分の父親の為に気持ち悪い場所へと飛び立つ。そんな俺とヤチャを前にして、ウライゴさんは黙ってはいられないといった顔だ。ヤチャも気持ちをくみとったようで、ウライゴさんの手を握った。


 「ありがとう……黙って見送ることはできなかった。でも、役に立てるかは解らない」

 「お前らしい……ウライゴ」


 ヤチャのセリフからするに、ウライゴさんもかなり強情と見える。ついてくるのを拒んだとしても、無理やり追いかけてきてしまうかも解らない。ウライゴさんを乗せて飛び立ったヤチャの背中にしがみつきつつも、彼は後悔の念を口にしている。


 「本当は2人と旅に出たかった。父さんを助けにも行きたかったけど、戦いのジャマにもなりたくなかったし、四天王の部下をまいて、みんなと非難するので精いっぱいだった」

 「ウライゴ……昔から、テルヤと修行……」

 「ああ。僕も強くなりたくて一緒に修行してみたけど、テルヤには敵わなかったし、すぐ体を壊した。僕はダメだな」


 以前に見た過去の映像にはウライゴさんはいなかったけど、俺たちは昔からの友達といった関係らしい。とはいえ、この世界に入り込んだばかりの俺には、その記憶は一切ない。そんな俺に、ウライゴさんは思い出語りを始める。


 「テルヤとヤチャとは、修行以外では、いつも一緒だった。運命のペンダントを見ようって、こっそり父さんの部屋に入り込んで怒られたりした」

 「失敗……したぞぉ!ふはは!」

 「へぇ……」

 「ヤチャがつまみぐいで夜ご飯を全部、食べてしまって、代わりのご飯をみんなで作ったりね」

 「すまん……ふはは」

 「へぇ……」


 俺の返事が釣れないせいか、ウライゴさんは心配そうに俺の顔を見た。


 「……テルヤ、もしかして忘れたのか?」

 「い……いや?昨日のことのようだぜ?鮮明だなぁ」

 

 まずい……いつもの3人に、俺だけがいない。ひとまず話をあわせるだけあわせておいたが……それはそれで、ちょっと寂しい。


                              第108話の4へ続く

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