第108話の1『お出迎え』
《 前回までのあらすじ 》
俺は時命照也。割とバトルものの世界に馴染んできた、恋愛アドベンチャーゲームの主人公だ。魔王に洗脳された師匠を助けるためには、失われた師匠のモミアゲを探し出さなければならないと解った。俺たちは故郷であるへイオンの村へと戻り、そこでウライゴさんという知り合いらしき人と出会った。
「ここだ」
ウライゴさんが立ち止まった場所は、手足では登れないほどに切り立った崖の下である。目の前には岩の壁しか見えない。そこに手をついて何かを探した後、ウライゴさんは足元の石をひろいあげて、それで壁をコツコツと叩いた。
「……」
独特のリズムで壁を何度も叩いた後、ウライゴさんは数歩だけ引いて待機を始めた。振り返って俺たちの顔を見たりもするが、特に何か言うでもない。ただ待っている。
「……」
「……」
何だろう……ウライゴさんは髪をいじってみたり、快晴の空を仰いでみたりしている。もしや、これも道を開くための合図なのか?待つこと10分ほど。ついに岩の壁に変化が見られた。壁の中から、男の人の声がする。
「……おまた……せ」
「すみません。ゲンサンさん。ただいま、戻ったよ」
ゴゴゴと岩の1枚が動き出し、その開いた隙間から切れ長の目がのぞいた。ただ、それからもなかなか道は開かれず、ヤチャが通れるくらいの道が出来たのは更に10分後である。壁の奥にいる人たちも、汗だくで息をぜぇぜぇ言わせている。あちらにばかり頑張ってもらうのも気の毒なので、非力ながらも手伝おうかと名乗り出た。
「俺も押しましょうか……?」
「テルヤ。これ、中からでないと開かないんだ。もう少し待って」
そうウライゴさんに言われたので、大人しく待っている事にした。やっと通路が開き終え、ゲンサンさんと呼ばれた人の他に、あと2人が道の開通を手伝っていたことが解った。俺たちが中へ入ると、岩のトビラは自動的にバコンと閉じてしまう。内側からしか開かず、しかも開くのに3人がかりで30分。入ったらすかさず閉じる。強固なバリケードである。ゲンサンさんは俺にハグしつつ、再会をかみしめている。
「よく帰ったな!テルヤ!と……お前は誰?」
「ヤチャだぁ……」
「そうなの!?どのへんが?」
ヤチャの変貌ぶりにゲンサンさんも驚いてはいるが、敵意がないからか信用はしてくれたらしい。それにしても、みんな元気そうで何よりである。ゲンサンさんより年上らしき男の人がタイマツを持っていて、その灯りを頼りに先へと進む。道はせまいが枝分かれしていて、あちらこちらに村人らしき姿が発見できる。きっと見張りの人なのだろう。
「おお、テルヤじゃあないか!ここの地下、滝あるぞ!打たれてくか?」
「お前、滝が好きだもんなぁ。ちょっと水は冷たいが、遠慮すんなよな」
「テルヤ!滝はあっちだぞ!」
村の人たちに会うたびに、やたら滝を勧められる。俺は一体、どういうキャラで通っていたのか。どの人たちも俺は会ったこともないのだが、こうして親しく話しかけてもらうと、なんだか俺も古い知り合いに会ったような、不思議な気持ちになってくる。村での思い出をたくさん持っている。そんな俺もいたのかもしれない。これから、そうなっていくのかもしれない。
「そこ、座りな」
「あ……はい。失礼します」
のれんをくぐった先、個室のような場所に辿り着く。部屋の隅には地下水が湧きだしていて、それをコップにくんで、ゲンサンさんは俺とヤチャに差し出してくれた。水を口に入れてみる。歯が震えるほど冷たくて美味しい。
「んで?村が襲われてから、なにがあった?」
現在、部屋にいるのはゲンサンさんとウライゴさん、向かい合って座っているのは俺とヤチャだ。ゲンサンさんの疑問を受けて、ウライゴさんが俺たちから聞いた限りを明かす。
「テルヤとヤチャが言うには、父さんは生きているという。でも、今は敵の手中だ。2人は師匠のモミアゲを探しているみたい」
「なっ……シショーンさん、生きていたのか?」
師匠、シショーンさんって名前なのか。センニーンといい、名前が安直で憶えやすいな……。
「そうか……しかし、シショーンさんのモミアゲは、ただの毛の束でない。魔力のこもったカタマリだ。その辺りに落ちていて、気づかないはずはない」
「……と、いいますと?」
「持ち去られた可能性は高いだろう」
そうゲンサンさんは言うが……他人のモミアゲを持ち去る物好きなんているのか?ただ、心当たりはあるらしく、ウライゴさんはうつむいたままつぶやいた。
「魔力に敏感な者たち……ゲンサンさん。あそこじゃないかな?」
「その可能性は高いな」
「……?」
ゲンサンさんは地図らしき紙を広げ、現在地らしきバツ印から指を動かしていく。ドクロのマークが書かれた場所を指さし、その正体を告げた。
「テルヤ。ヤチャ」
「……」
「ここが、魔王城だ」
……えっ?魔王城?
第108話の2へ続く






