第107話の5『帰郷』
「よし!ヤチャ、行くぞ!」
「おおぉ!」
さあ。師匠のモミアゲを探す、大いなる旅へ……出かけようと思ったのだが、どうやって島から出たものか。大陸へ続く道などはないのかと、俺は足踏みながらに大賢者様へ尋ねた。
「えっと……どうしましょう?」
「ここは孤島だからな。かといえば、海とも繋がっていない。無の境界に囲まれた場所だ」
それじゃあ、空でも飛ばないと出られないじゃないか。ヤチャだけなら飛んで出られるかもしれないが、飛行に際して発せられる高温の魔力に触れたら、俺は火傷をしてしまうだろう。いや、今の修行したヤチャなら、高熱を発さずに空を飛べたりはしないだろうか。
「……ヤチャ。俺をつれて、島を出られないか?」
「おおおぉぉぉ!」
ギュインギュインと強烈に発光を始めたヤチャへ、少しずつ少しずつ近づいてみる。やはり熱くない。これなら抱えていってもらえそうだ。俺はヤチャの片腕に乗りかかるも、すぐさま次なる問題に直面した。大賢者様は俺の思考を先読みして、そちらについて解決策を示してくれた。
「方角が解らぬのだろう。転移させてやろう」
「あ……ありがとうございます」
大賢者様が葉っぱの1枚を湖に投げ込むと、その場所から空へ向けて光が立ち上った。光の奥には森や空が見える。ここへ飛び込めばいいのかな。新たな旅立ちを前に、色々と面倒をおかけしている大賢者様へ俺は改めて頭を下げる。
「大賢者様……色々、ありがとうございました」
「わらわが何をしたかというと、大して何もしてはおらぬがな……ヒマつぶしとして見れば、おぬしたちは愉快であったぞ」
独り立ちしたアマラさんは忙しくて帰って来なさそうだし、魔王を倒したあとでまた遊びに来られたらな……などと考えてみる。なんにせよ、色々とお世話になった。
「遠慮するでない。行くがいい」
「はい。よし、行くぞ!ヤチャ!」
「おおおぉぉ!」
ヤチャが先んじて湖の光へと飛び込む。水しぶきも上がらずにヤチャの姿は消えていった。俺も同じようにしてジャンプして後を追う。
「……」
「……」
まちがえた……つい癖で、湖の上に立ってしまった。
「おぬしおぬし……そんなに、わらわといたいか?」
「失礼しました……行きます」
水の上、魔力の上に立つ技は、すっかり体に染みこんだようである。体に力を入れると、そのまま俺はスッと水の光へと落ちていった。
「うああああぁぁぁぁぁ!」
転移先の景色が見えていたから、すぐに到着すると思っていたのだが……思いのほか、ずっと落下の状態が続いた。落ちるスピードも速くなり、まるでジェットコースターのくだりに差し掛かったような感覚だ。一層のまぶしさが体を包んだ。次の瞬間、先程までいた島の物とは違う、湿気を帯びた空気が体に感じられた。
「うわっと!」
ワープホールから勢いよく吐き出されるも、うまく受け身をとって地面の上に転がった。今の俺の動き、ちょっとカッコよかったな。これも修行の成果か……どうだろう。それは定かでない。
「ヤチャ。ここは……」
「ヘイオンの村……」
俺とヤチャの故郷、ヘイオンの村。そこはワルダーと師匠の激闘の跡を深々として残しており、建物や壁などはガレキとして積まれている。辺りを散策してみるが、どこにも師匠のモミアゲが落ちている気配はない。
「ないな。どこかへ飛ばされたのかな……」
「……ッ!」
何か気配を感じ取った様子で、ヤチャが俺の前に出た。敵か?俺もヤチャの視線の先を見つめる。そこには弓を構えた、背の高い男の人が立っていた。
「……お前は、ヤチャか?」
「お前……ウライゴ」
「それと……テルヤ。帰ってきたのか。僕たちの村に」
「……?」
男の人に名前を呼ばれる。誰だ?知り合いか?だとすると、今の変貌したヤチャを見て、よくすぐにヤチャだと気づいたな……それだけでも、彼がただものではないと解った。
第107話の6へ続く






