第107話の3『激闘の果て』
『おいぼれめ!死ね!えええぇぇ!』
『おわっぱ!』
炎をまとったワルダーの手刀が振り下ろされるも、間一髪のところで師匠は転がり避けた。焼け落ちたモミアゲを回収し、ぱぁっと手を発光させてモミアゲを頭に装着した。
『モミアゲ装備!』
『片方のモミアゲで、俺を止められるものか!?』
師匠はモミアゲを失うと本来の力が出せなくなるのだろうか。なんとかモミアゲ1つの力で戦っている。というか……モミアゲって着脱可能なのか。そういや、俺たちが四天王の師匠と向き合った時、モミアゲはなかったようにも思う。どこかでなくしちゃったのかもしれない。
『……爆裂拳!』
『チィ!』
師匠の打ち出した拳がズドンと爆発し、空気の震える轟きと共にワルダーの体は民家を突き破って飛ばされた。もう村の人たちは避難を終えているのか、周りに一般人は誰もいない。すかさず、倒壊した家を一気に吹き飛ばし、炎をまとったワルダーが弾丸のごとく迫ってきた。
『豪炎大破掌!』
『爆裂拳!』
師匠の爆発する拳と、ワルダーの燃える掌がカチ合う。強い光が衝撃波となって広がり、村が一瞬で崩壊する。ワルダーの硬そうな鎧がヒビ割れ、師匠の体もメキメキと悲鳴を上げている。俺から見れば力は互角だ。だが、ワルダーの鎧についている赤いオーブが輝くと、師匠の体は火だるまとなって燃え始めた。
『おおう……ッ!』
『じじい!お前は強い!でもな!俺はオーブがある限り死なない!死ななきゃ……死ぬ気で戦えるんだよぉ!』
『ワシのモミアゲが……モミアゲがァ!』
片方だけ残っていたモミアゲが、チリとなって消えていく。むしろ、全身が炎上している訳で、モミアゲの心配をしている場合ではないような気もするが……と、モミアゲを失った師匠は白目をむき、顔に血管を浮き上げらせた。
『おおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!』
『な……こいつ、力が……バカな!』
モミアゲを失った師匠は、すでに正気ではない様子だ。リミッターが外れたとばかりに荒れ狂い、今度は師匠の方がワルダーを押している。ワルダーも必死で炎を噴き上げ応戦。魔力は竜巻を起こし、爆炎と黒煙の果てには倒れた師匠とワルダーの姿が残っていた。
『……』
『う……があああぁ!』
気絶したワルダーへ師匠が飛び掛かり、馬乗りになって連続で殴りつける。その痛みで目をさましたワルダーが、魔力を爆発させて師匠をはじきとばす。倒れたままキラキラと消えていく実物のワルダーと、映像の中で師匠とやりあっているワルダーを俺は見比べている。
「……」
緊迫した戦いが続いている……そして、それは非常に長丁場であった。映像を再生している大賢者様も、あくびなどして映像に飽き始めている。このまま時間を消耗するのも得ではないと考え、俺たちの総意を受けて映像はスキップとなった。大賢者様が湖をちょいちょいとつついてあげると、映像は暗い森の中へと移り変わった。師匠は1人でうずくまり、悶えるような声をあげている。
『ぐぐぐ……があああぁぁぁ!』
「お……早送りし過ぎたな」
「これは……戦闘が終わったあとでしょうか」
大賢者様が映像を戻そうとした次の瞬間、師匠の近くに不思議な光の球が現れた。その光が師匠に語り掛けてくる。
『勇者を見に来たけど……あんた、強そうだな』
『ぐぐぐぐぐぐ……』
この声……前に聞いたことがある。ブシャマシャさんの飛行船で聞いた……自称・魔王の声だ。
『丁度いいや。四天王、まだ全員、決まってなかったんだ。お願いできる?』
『ううう……うああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
黄色のオーブを取り付けられ、師匠の体が黄金の光を放った。師匠は自我を失った状態で立ち上がり、大きな叫び声をあげた。
『勇者……たお……たお……すっ!ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
こういった経緯があって、師匠は四天王になってしまったのか。しかし、その事実どうこうより気になったのだが……えっと。四天王なのに、最初は4人いなかったのか。なんだか、見切り発車感が凄い。
第107話の4へ続く






