第107話の2『あの日あの時あの場所で』
「テルヤァ……こいつ」
「ああ。師匠と戦ったやつだぜ」
などとカッコいい感じでヤチャに説明してみたものの、俺は以前にヤチャへと『ワルダーは師匠が倒して封印した』という旨の説明をしてしまっており、それは口から出まかせなので真偽は不明だ。師匠はワルダーと戦ったあと誰かに負け、洗脳を施されて四天王として操られたのだろうか。ひとまず、可能性の高そうなセリフを吐いてみる……。
「ワルダー!お前は師匠が倒したはず!なぜ、ここに!」
「……は?」
「……は?」
この世で最も短い疑問のセリフを投げられ、俺は同じセリフをオウム返ししてしまった。違うのか?じゃあ、ワルダー城でワルダーが召喚された時、ものすごい勢いで城をつきやぶって落ちて行ったのはなんだったのか。ワルダーは誰が倒した?ゼロさん……ではないよな?よし、本人に聞こう。
「ワルダー!ちょっと聞きたい!」
「なんだァ?」
「お前、誰にやられた?」
「……は?」
ワルダーの口癖は『は?』なのではないかと思うくらい、俺とワルダーの会話が噛み合っていない。あまりに会話が進まないので、大賢者様が仲裁に入ってくれる始末である。
「おぬしとあやつ。全面的に食い違っているからして、1つずつ説明するぞ?よいな?」
「はい」
「きつね畜生めに取り仕切られる筋合いはない!おおおおぉぉぉぉぉ!」
スッと腰を低くして構え、ジグザグとした動きでワルダーが駆けだす。地面に炎が立つほどの高速移動だったのだが……前へと躍り出たヤチャの一撃で、あっけなくもワルダーは宙を舞った。
「ふんっ!」
「ぐ……ぐああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
空で3回転半を果たした後、ワルダーの体はドサリと地面に落ちた。よみがえったばかりのようだが、もう体はキラキラと光を発しながら消滅を始めており、勝負は一瞬で終わったのだと解る。
「勝ったぞおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
ヤチャは師匠のカタキ……かもしれないワルダーを撃破した。だけど、師匠を倒したのはワルダーなのか?ワルダーを倒したのは師匠なのか?その点もふまえて、改めて俺は大賢者様に尋ねた。
「いろいろと俺も勘違いがあるみたいで……詳しく教えてもらえませんか?」
「おお。それなりに過去の映像を出すのでな。用意をする。少し待つのだ」
キツネの姿の大賢者様が頑張って後ろ足だけで立ち上がり、ぷるぷるさせながら前足を上げている。そこへ周囲の木々から草葉が集まり始め、次第に大賢者様の体を包んでいく。体の内から輝きを放ち、大賢者様は人間の姿へと変身した。
「……おぬしが裸では参ると言うから、これで問題ないだろう」
「かわいいですね」
「かわいいか……むっ。中に虫が。こちょばゆい」
大賢者様は草や葉で作ったドレスをまとっていて、それなりに色とりどりでオシャレであった。胸元から虫を追い出して森へと返し、大賢者様は湖のそばへとヒザを降ろした。
「まず、勇者とヤチャが村から逃げるところから見せるぞ」
湖に映像が映し出され、俺と……小さかった時のヤチャが見えてきた。そして、俺たちをかばう形で、師匠がワルダーと対峙しているのも確認できた。
『ヤチャよ!ここは、ワシが食い止める!とにかく、これを持ってテルヤと共に逃げるのじゃ!』
『これは……テルヤ!もしかして、これって……ッ!あれかな!?』
『くく……老いぼれよ。お前に、このワルダーが止められるか?』
第1話でかわされた、なつかしいセリフが聞こえてくる。師匠からペンダントを受け取って、俺たちは村をあとにしたんだったな。もみあげをつまんだ姿勢で師匠が攻撃の構えをとり、ワルダーも拳から炎を発している。
『はははぁ!じじい!四天王のオーブは、勇者の攻撃より他には攻撃を許さない。よって、お前に勝ち目はない!』
『勝ち目なんぞ、とっくに捨てている。ワシは最後まで、勇者の目覚めを待つ……ッ!』
シュッと双方の姿が消え、映像の中の師匠とワルダーは戦闘を開始した。ワープしながらぶつかりあうがごとく、攻撃を打ち合う瞬間だけ、2人の姿が垣間見える。バキィバキィと何度も攻撃をかわし合った後、間合いを取ってワルダーが語り掛けた。
『なかなかやるな。気が変わった。本気で相手をしてやろう!』
『ワシは倒れん!このモミアゲがある限り!絶対に!』
あっ……。
『……隙ありぃ!』
『なっ……ワシのモミアゲが!』
一瞬だった。師匠の髪の長いモミアゲが両方とも焼き切られ、師匠は力なく尻もちをついた。
『モミアゲが!』
『お前は終わりだ!』
『モミアゲ!』
それは、非常にシリアスなシーンだ。そのはず……なのだが、話の焦点は全体的にモミアゲである。モミアゲであった。
第107話の3へ続く






