第107話の1『知らない宿敵』
俺は時命照也。バトルものの世界に割となじんできた恋愛アドベンチャーゲームの主人公だ。魔王に洗脳された師匠との戦いに敗れた俺とヤチャは、霊界神様の力で不思議な島へと飛ばされた。そこで行われた修行によって新たな力を会得し、あとは再戦にそなえるだけなのだが……。
少しばかり休憩を入れた後、俺は水の上に立つ修行を再開した。もうコツはつかめてきていて、大賢者様が横にいなくても成功できる自信はある。むしろ、水以外の上にも立てるような気すらしている。やってみておいた方がいいだろうか。
「……ヤチャ。頼みがあるんだけどいいか?」
「……?」
俺の背丈ほども大きさのある岩の前へとヤチャを連れて行き、そこにアグラをかくかたちで座ってもらった。その状態で魔力を放出するよう頼むと、ヤチャの体からは高温をまとった光が発せられた。
「おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
……熱い。この光に触ったりしたが最後、きっと俺は火傷するどころか消し炭になるだろう。だが、ヤチャの魔力は修行のかいもあってか、非常に安定している。以前は爆発するように放出されていた光が、今はストーブの中で燃える炎のように上へとキレイに昇っている。
「……よし」
俺は岩の上に立ち、気を集中して……ゆっくりとヤチャの魔力に足をかけた。魔力に押し上げられる形で、ふわりと俺の体は宙に浮かんだ。
「……うわっ」
魔力に体が乗った。その安心から気が緩み、誤って体を落としてしまった。しまった!焼けるような熱が足元を襲う。しかし、その熱さは体に伝わらず、俺の体はヤチャの腕の中へと落っこちた。
「……あれ?ヤチャ。お前」
「ふふふふ……」
魔力の光は消えていない。だが、熱さも感じない。俺はヤチャの腕から降りると、何が起きているのか大賢者様に説明を求めた。
「ヤチャの魔力が……」
「修行の成果が出たな。いい傾向だ。ヤチャ。全力で、あの岩を壊してみるがいい」
「いい……のか?」
「おお。存分にやるがいい」
大賢者様の許しを受けて、ヤチャは体にまとった気を何倍にも膨れ上がらせた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁl!」
今までも、岩に撃ち込んでいた魔力は常に全力だったはずだ。だが、俺が自分の修行に集中している間にも、ヤチャは一目で解るほどにパワーアップしていた。山の向こうまで響くほどの咆哮にあわせ、ヤチャは両腕を突き出した。
「……はあああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
もはや、ヤチャの放った魔力の弾は俺の目には見えず、気づいた時にはターゲットの岩は爆発をおこしていた。ものすごい音に俺は耳をふさいだものの、耳の奥に音がたまったような残響があった。壊れた岩は、もう元には戻らない。それは、修行の終わりを意味していたのだと思う。
「勇者。ヤチャ。敗北は気づきを与え、勝利は己の力を知る術。次は師匠の胸を借りるがいい」
「ありがとうございました……」
大賢者様の指導の元、やるべきことはやった。一応、作戦もある。正直なところ、師匠に勝てるかどうかといえば、確信はない。でも、ヤチャが俺を信じてやってくれるなら、それに俺も報いるだけだ。暮れかかってきた空の彼方、あの向こうにいるであろう師匠を想像し、俺は緊張で震える体をおさえつけた。
「……?」
空を見上げていると、小さな輝きが目に映った。流れ星か?いや……違う。段々と近づいてくるぞ。
「くはははははははははは!はっははははははははは!」
光が近づくにつれて下品な笑い声が聞こえ始め、俺と大賢者様はイヤな予感を顔に出した。空から落ちた光は森をえぐって、地面へと爆発しながら突き刺さる。つちぼこりが竜巻となって上がり、姿は見えぬままに、相手は俺たちへと呼びかけてきた。
「勇者!会いたかったぞ!」
「……?」
舞い立った煙の中から、ボロボロの鎧を着た大柄の男が現れた。見覚えあるよなないような……そう考え込みつつ見つめていると、あちらは親切にも自己紹介を始めてくれた。
「一度は不覚をとったが……勇者の旅も、ここで終わりだ。蘇りし、四天王の一角!ワルダーの相手、今度はしてもらうぞ!」
「わ……ワルダー?」
四天王……ワルダー……ああっ!最初の村を旅立つ時に、師匠と戦ってたやつか!思い出した!思い出した……けど、あんまり知らないやつだ!ごめん!
第107話の2へ続く






