第106話の5『特典映像』
「もう少し練習すれば、水の上に立つのも難しくなくなるかと」
「それは、魔法ではないな。勇者の力か?」
「はい……俺、自分の役割に気づいたので、それを念頭に置いてやってみたらできました」
何度も申し上げている通り、俺は恋愛アドベンチャーゲームの主人公となるべく生きてきた人間だ。その役割をふまえて、今の自分にできることを考えてみた。詳しくは来たる師匠との決戦の時に説明するが……結論から言えば、運よくペンダントが新たな能力に目覚めた次第、魔力がなくとも水の上に立つことに成功した訳である。
「はああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ヤチャの放った魔力砲もターゲットである岩をすりぬけて、キレイに野山へと消えていった。俺とヤチャは岩の壁へと近づき、ひび割れなどがないかを確認する。ツルツルとした岩の壁は俺たちの顔を映しており、そこにヒビや亀裂といったものはうかがえない。
「ヤチャ!やったぞ!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」
不器用ながらも俺たち2人は課題を達成した旨、大賢者様へと報告へ向かう。大きな平たい岩の上に座り込んでいた大賢者様も、手に持っていた果物を横に置いて、肉付きのいい腰を持ち上げた。
「うむ。予定よりも早く成功したか。感心感心」
「この能力で師匠に立ち向かうわけですが……早く行った方が戦いは楽だったりします?」
「うんにゃ。おぬしらの師匠が作っている魔力の爆弾は、あくまでおぬしたちをおびき出す罠だ。早く戦おうが遅く戦おうが、あちらの放つ攻撃に違いはないであろう」
すると、師匠の作っている魔力の爆弾が爆発するまで、まだ練習の時間は残されているということだな。今回の作戦は……俺とヤチャ、どちらが力み間違えてしまっても確実に失敗する。しかも、失敗は俺の死を意味するからして、気軽にお試しすることもできない。ぶっつけ本番だ。最後の最後まで、練習には練習を重ねておきたい。
「俺、まだ練習します。大賢者様は、もう自由に過ごしていただいて問題ありませんので……」
「お、マメだな。勇者君。しかしだ。折角、島の他所から人が来たのである。わらわも最後まで、おぬしたちの相手をしてやろう」
岩の上に座り込んだ大賢者様が、ピカリと光って赤いキツネの姿に戻った。戻ったとは表現したが……どちらが本当の姿なのだろうか。貸していた制服を返してもらいつつ、やんわりと俺は大賢者様の素性について聞いてみた。
「人とケモノ……どっちが真の姿なんですか?」
「それは人だが……ちっちゃい体は楽でな。それにほれ、大きいと重いだろう?」
男の俺には解らないが、大きい女の人には大きいなりの悩みがあるらしい。それはもう、体に合う服がないあまり、服を着るのをやめてしまった可能性も無きにしも非ずである。そうした会話をしている横で、ヤチャは増量した筋肉を見せびらかしながら俺に告げた。
「テルヤァ……オレサマ、仲間……心配だぁ!」
「それもそうだなぁ……」
仙人の安否も謎だし、姫様の部屋に連れ込まれたゼロさんも心配である。ララさんは精霊だから、霊界神様の元へ戻されたのだろうか。グロウは……まあ、根拠はないけど生きてるだろう。
「……ん?見たいか?ごほうびじゃ。見せてやろう」
霊界神様がシッポの先で湖をつつく。すると、壺の水に映像が映った時と同じく、水面に別の場所の風景が映し出された。なるほど。水さえあれば、どこでもできるんだな。
『ブレイド君。魔道具は?あれをつけていると、姫様に見つかるよ?』
『外しました故、心配はご無用です。ええ』
どこかの一室が水面に映し出され、会話をしているアマラさんとブレイドさんの姿が見えてきた。なぜ、この2人が撮影されているのか。そう疑問に思っていると、2人の後ろにあるクローゼットが少しだけ開き、ゼロさんの片目がのぞき見えた。
『助かった。恩に着る』
『いえ……ワタクシの姉が、とんだご無礼を』
ブレイドさんの言い方から察するに、ゼロさんが姫様の部屋へ連れ込まれた後、どうにかしてブレイドさんとアマラさんがゼロさんを救出したらしい。よかった。すると、アマラさんが冗談交じりの口調で、姫様の犯行についての証言をゼロさんに求めた。
『ちなみに、姫様には何もされなかったかな?』
『たいしたことはない。姫の部屋に入って……』
……。
『右の耳を甘くかまれた。そのくらいだ』
それは……割と辱められた方なのではないかと思うが、俺の気のせいだろうか。
第106話の6へ続く






