第106話の3『需要はあるので…』
「ついて行くのはよいが、獣の姿に戻る。少し待つがいい」
「いえ……できれば、そっちの姿の方が」
「ん~……そいつは問題だ」
「……?」
俺の居場所からは大賢者様の胸元くらいまで見えているが、そこから下は小屋に隠れて見えていない。でも、裸に違いない。
「おぬし、わらわの裸をさけているな?すると……外に出ようにも、着ていく服がない」
「……」
俺は学生服の上着とYシャツを脱ぎ、頑張って腕をのばし大賢者様へとお渡しした。大賢者様と俺より細身だと思われるからして、これを着てボタンを閉じてもらえば、腰までは隠れるだろう。最低限、股間部さえ隠れていれば、少年マンガのラインならば許される程度の露出の……はず。
「着たぞ」
「ちょっと検査しますね」
小屋から出てきた大賢者様の下半身を手で隠し、徐々に手を下へ下へと下げていく。思ったよりも胸が大きいな。失礼ながら、ゼロさんと比較して2倍以上もある。そのせいで胸に服が持ち上げられていて、股間部分まで服で隠れているか不安だったが……ギリギリ服の影でごまかせるくらいには裾が足りていた。
「しかし、見慣れぬ衣服だ。わらわも知らぬ民族衣装か?」
「まあ……そんな感じです」
「やや臭いぞ……」
「あんまり洗えてなくてすみませんね……」
俺の服が最後に洗濯されたのは……セントリアルで入院した時だろうか。それから一週間と少しくらいは経っている。学生服なので頻繁には洗わないものだが、俺は汚水で濡れたり汚れたりしたので、普通に学生生活を送るよりも臭いのは否めない。
「走らないでください……なんというか、見えちゃいます……」
「注文が多いやつだな……イヤなら見るでない」
「俺は見ませんけど、出た時点でアウトなので……」
俺にはゼロさんという人がいるので、どんなに美人でスタイルの良い人がいたとしても、決してうつつを抜かさないのだ。大賢者様の服の裾がめくれると危険なので、走らずゆっくりと俺は修行場所へと連れて戻った。その移動の中でも、大賢者様は修行の助言はしないと俺に釘をさしてくる。
「事前には言ったが、わらわは修行の手助けはせんぞ」
「大丈夫です。ただ、大賢者様には……横にいてもらえばいいので」
「まあ……一応だが……わらわ、こう見えて100歳を超えている。無理はできんぞ?」
「それはそれで需要はあるので、大丈夫です……」
服の下がチラリと見えそうで見えないのもアリだし、胸の大きさで服のボタンが閉まりきっていないのもアリだし、見た目だけ若くて年寄りというのも、一部には人気があるやもしれない。その調子で、俺とヤチャが修行しているムサイ風景に華を添えていただきたい。
「それはそれとて、勇者」
「なんですか?」
魔力を放っているヤチャの叫び声こそ遠くから聞こえるが、まだ歩けば残り5分はかかると見た。俺の前をおっちら歩きつつ、大賢者様が俺に質問を放る。
「また扉を壊しただろう?」
「そういえば……俺が小屋に着いた時に言ってた、モンちゃんって誰ですか?」
「モンちゃんはお猿のモンちゃんだ。気は優しくて力持ちのいいやつだぞ」
お猿……ってことは、俺が目を覚ました時、木の実をくれた大きなお猿さんか。すると、扉をなおしたというよりは、ただはめ込んだだけなのだろう。したら、また触らずとも倒れてしまうのもやむなしである。
「これほど言っているのに、絶対に壊したとは言わないのだな。師匠を倒した後、修理させようと思っているのに……」
「だって壊してないですし……」
話をすり替えてみたものの、すぐにバレてしまった。でも、本当に壊していないのだから、ここでは正直に生きようと思う。
「はああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「おお。あっちは随分と捗っているな。生臭な勇者とは違う」
「おおおおおぉぉぉぉ!テルヤァ!」
俺が戻ったのを見て、ヤチャが嬉しそうに手を振っている。なお、大賢者様の姿も目には入っているはずだが、そちらへは特にリアクションもない。バトル漫画の人たちの思考って基本的には、色気より血の気なのだろうか。そんなことを考えている俺に、大賢者様は半笑いの表情で告げた。
「わらわ、おぬしの旅を見ていたが……」
「……」
「おぬしに一番、好感度が高いの……おそらくヤチャでないか?」
言われてみると確かに……そして、2番目に高いのはグロウやもしれん。でも、それは俺の本分から逸れているので、あんまり嬉しくはない……。
第106話の4へ続く






