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第105話の5『ものはやりよう』

 「大賢者様」

 「なにか?」

 「水の上に立てと言われても……俺、魔法も使えないんですけど……」

 「勇者だろう?できる」

 「できますか……」

 「やろう出来ようの精神よ」


 大賢者様なので、大いに賢い者であることは名に冠する通りであり、その人……いや、キツネが言うのだから、できる可能性は0じゃないのだろう。ヤチャには『とりあえず、やってみたら?』などと軽く勧めてしまった俺なので、こちらも試すだけは試してみようと思う。


 「……う~ん」


 湖に足を乗せる。湖のふちの浅いところに、あっけなくも俺の足は水没する。水にひたってはいるが、ズボンが濡れているわけでもない。一応、俺の足の動きにあわせて水は揺れるが、大きく蹴り上げても飛沫は飛ばない。すりぬけるようだ。これの上に、どうやれば俺が立てるというのだろうか。


 「……わらわは教えんぞ?あんまり優しくすると修行にならんからな」

 「ですよね……」

 「はあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ヤチャは岩の板を一撃で簡単に破壊していて、ということは修行の完遂にも時間がかかると見ていい。俺が目の前の難題に首をひねっていると、大賢者様は尻尾を夜空の月へと向けた。


 「3日だ。その後の朝が来たら、おぬしらを師匠の元へと飛ばすんでな。死ぬ気で挑むがいい」

 「3日後の朝……実質、3日と6時間くらいですか」

 「オレサマは1日で十分だぞおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!」

 「ほぉ。よろしいか?」

 「3日でお願いします……」


 ヤチャの適当な発言をなだめて、しっかりと3日の猶予をもらった。3日あってもできる気はしてこない上、できたところで師匠に勝つ方法の目途も立たない。この3日で大賢者様の試練を達成して、それを活かして師匠に勝つ術も考える。課題は山積みだ。


 「んじゃあ、わらわは行くので。3日後に会おう」

 「ありがとうございました……」


 大賢者様は俺たちにやるべき課題を与えると、来た道を戻って小屋の方へと帰っていった。ヤチャはヤチャで修行にはげむとして、俺は水の上に立つ方法を考えよう。安直に解決策を練りだすならば……そうだ。木の板に乗ってみたらどうだろうか。


 「ヤチャ。ちょっといいか?」

 「いいぞおおおおおおぉぉぉぉぉ!」


 近くの森までヤチャについてきてもらい、湖に浮くための木材を手に入れようと試みる。ヤチャが軽く殴っただけで、木はメキメキと割れて倒れた。その木に触れてみるが……俺の手がついた瞬間にも、木はボソボソになってくずれてしまった。


 「……ダメか」


 ヤチャが触れている間は木も硬さを保っているのだが、俺が持つと耐久力が落ちてしまって使い物にならなくなる。これも魔力が無いからなのだろう。板に触れることもできないとなれば、板の浮力を使って水の上に立つことはできない。


 「ダメそうだな……ありがとう。今度は俺がヤチャの方に手伝うよ」

 「ふふふ……」


 湖の近くへと戻り、今度はヤチャの修行に知恵をしぼってみる。全力で攻撃して、かつ壊れないようにする方法か……ちなみに、この大きな岩の板、手加減したら壊れないのだろうか。


 「半分くらいの力で攻撃したら、どうなるんだ?」

 「やるぞぉ……はあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 若干、さっきよりも叫び声が短い。魔力の強さって、声の大きさで変わるのだろうか。そんな気力を弱めた攻撃でも、岩は自爆するかのごとく壊れてしまった。

 

 「もうちょっと弱めてみるか?」

 「はあああああああぁぁぁぁぁぁ!」


 再生した岩に向けて、もうちょっと短い叫び声で攻撃してもらった。これでも岩は壊れてしまう。


 「まだ強いんじゃないか?」

 「はあ」


 もはや溜息にしか聞こえないくらいの掛け声なのだが、それでもヤチャの攻撃で岩は爆発した。もろすぎだろ……俺が殴っても壊れるかも解らない。


 「はああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 岩が再生するかしないかといった早さで、すかさずヤチャは全力の魔力をぶちこみ、岩を豪快に四散させた。その様子を受けて、ヤチャは満面の笑みでつぶやいた。


 「ふふふ……楽しい」

 「楽しんだらダメだろ……壊しちゃダメなんだから」


                               第105話の6へ続く

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