第33話の3『拮抗』
本当に万策尽きたら物語が進まない訳で、修行でもなんでもして竜巻の中へ入っていかねばならない。そうだ!上からなら入れるかもしれない。ヤチャに確認してもらおう。
「ヤチャ。ヤシの実を食ってるところ悪いが、あの水流の上から中に入れないか見てきてくれないか?」
「まかせろおおおぉぉぉ!」
そう言うと、ヤチャはヤシの実を俺に渡して空へと飛んでいった。もし水流の上側から見て中央がガラ開きならば、ヤチャにイカダを空へと運んでもらい、そっと降ろしてもらえばいい。
(そう易々といくか?)
「いかないでしょうね……」
仙人同様、俺も期待値こそ高くはないものの……まぁ、ものは試しである。塩水のしぶきに目を細めつつ、ヤチャが空の星となって輝くまで見届けた。あとは高すぎて見えん。
「……お兄ちゃん。ムキムキが帰ってこないんじゃが」
「お腹が空いたら帰ってくるだろう……」
……あれ?ただ様子を見に行ってもらっただけなのだが、30分くらいしてもヤチャが戻ってこない。もしや、化け物に襲撃されたのだろうか?そうとあっては黙って待ってはいられない。ヤチャの様子を確認すべく、俺はイカダに乗り込み不慣れな手つきでオールを抱える。
「俺、ちょっと近くに行って見てきます。みんな、ここで待っててください」
「お前、バカかイクラ!そんなもん漕いで、あれに近づける訳がないイクラ!下等な人間は頭も下等イクラ!」
「でも、仙人たちに偵察を頼んで、同じように帰らぬ人となったら困りますし……」
「だったらよぉイクラ!俺たちに頼めば、イカダくらい押してやるってこったイクラ!」
「……え?」
「そうダコ!一応、命の恩人ダコ!クラゲの意見、賛成ダコ!」
イクラさん……いや、クラゲさん。意外と良い人なのかもしれない。
「よし!勇者1人で行かせられんべ!お前らも乗れ乗れ!ギャババ!」
というギザギザさんの誘いもあって、俺たちは全員でヤチャの様子を確かめに行く事となった。 水の塔へと近づくにつれて襲い来る水しぶきも力を増し、今となってはオールで漕ぎ出さなくてよかったと心の底から思っている……。
「なんか、水の中で光ってるんよ!」
「……どこどこ?」
ルルルが昇り立つ水流を指さし、何か俺に見せたい様子である。しかし、俺といったら塩水が目に入って居心地が悪い上、その水の圧に押されてイカダから落ちそうで困る。
「……そうだ。博士からバリアを借りてきた」
「助かります……」
やっとゼロさんがバリアの存在を思い出してくれて、やっと俺も水の脅威から解放された。バリア越しに見た水流の中には確かに何か光っているものがあって、それに目を凝らしてみたら……水の噴き上げにあらがっているヤチャの姿が見えてしまった。
「ヤチャ……あれ何してんの?」
「勇者が入れるか見てくるよう言ったからじゃ……」
「……えええ?」
すなわち、『あの水流の上から入れないか見てきてくれないか?』は『上から入れるか知りたいんだけどな』となり、『試しに入ってみてよ』と拡大解釈されたらしい。その為、ヤチャは水流と互角の勢いで突っ込んでおり、不敵な笑顔のままブルブルと震えつつ同じ場所に制止しているのだ。見た目、バグって身動きの取れなくなった人である。あと、さきの戦いでパンツを失っており、素っ裸の為に絵面がヤバい。
「ゼロさん……どうしましょう」
「……すまない」
なぜか、一拍の間を持って謝られた……どうしよう。
第34話の1へ続く






