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第105話の3『痛みも苦しみもマヒさせる魔法』

 奇想天外な冒険を無意識の内にこなした俺なのだが、その自暴自棄ともいえる活力はなんだったのか。壺の中の映像を見た感じからして、森に入ってすぐに使った緑のオーブが怪しい。あれを使用して以降、俺の挙動が変態的になったのは火を見るよりも明らかである。


 「大賢者様。緑のオーブ……これ、どういう効果なんでしょうか」

 「回復の効果はあるはずだが、精神的・肉体的な鎮痛が主だろう。危険だ。使用頻度はおさえよ」

 「なるほど……」


 苦しくても痛くても、意識の続く限りは無理やり体を動かせる。無敵の状態に持っていける。それが緑のオーブの効力なのか。精神的に残念だったクロルさんからすれば、その時の精神状態にかかわらずいくらでも無理できるわけだから、無限のエネルギーがわいてくるオーブに見えて差し支えないかもしれない。でも、使い続けたら身をほろぼして妥当なので推奨はしない。


 「でな。わらわが聞きたかったのは……なんっつうか」

 「……?」

 

 俺がヤチャを探し出してきた道中の映像に関して、思うところが多々あると見える。大賢者様は口をしょぼしょぼさせながらも、やや遠慮がちながら俺に言及する。


 「おぬし……もしや、頭おかしいやつか?だったら、あんまり関わりたくないんだが……」

 「おかしくないです……俺ほどの普通の人は、そうそういないですよ」

 「おかしいやつほど、おかしくないって言わんか?」

 「俺は大丈夫です。それをいうなら……この島の方が、おかしくないですか?」

 「ああ。この島は、ちょっとおかしいぞよ」


 やっぱりおかしいんだ……俺のおかしくない発言にめくり返しで、島はおかしいと言われてしまうと、なんだか俺が正直じゃないみたいである。いや……でも、『俺はおかしいです』なんて自白したらば、それはそれで追い返されてしまいかねない。この口論、俺は勝つことをやめた。


 「まぁ、よい。んじゃ、行くぞ。ついてこい」

 「……?」


 外は夜だというのに、大賢者様は俺たちを誘って小屋を出た。どこへ行こうというのか。大賢者様の体は小さいが、毛並みは夜闇の月に光っていて、見失う心配はなさそうである。俺とヤチャは大賢者様の歩幅にあわせて、ゆっくりと後ろをついていく。怪しい場所につれていかれても困るので、出かける目的は先に聞いてみる。


 「ええと……こんな夜分に、どちらへ?」

 「修行だ。修行。どうせ眠れんだろ?時間もない。行くぞ」

 「まあ……ええ」


 映像で俺が気絶した光景から察して、3時間ほどは意識を失っていたであろう。これから夜明けまで眠れといわれると、それはそれで辛い。最後のオーブを持つ師匠が魔力の爆弾を作っているのも事実となれば、早めに対抗策を練らなければならないのも確かだ。


 「おぬしは、ヤチャから離れるなよ?また頭がおかしくなるぞ?」

 「……?」

 「この島は自然の力が非常に弱い。魔力がなければ、健康を維持できない」

 

 そういう事か。すると、俺にヤチャを探しに行かせたのも、俺の魔力をはかる目的だったと思われる。あまりに素質がなさすぎてオーブに頼るはめとなったが、そうでもしなければ俺は森の住人達とフィーリングをあわせられなかったに違いない。結果的に判断としては間違いではなかった……と好意的にとらえた。


 「……」


 それなりに遠くまで行くらしい。湖のフチを歩き、森のある方向とは別の道を進む。日中とは異なり、ヤチャの近くにいれば極度の疲労は感じられない。


 「……」


 夜闇をながめながらも、俺は考え事を始めた。ゼロさんはセントリアルにいたようだが、他の仲間たちはどうしたのだろうか。師匠と対峙した俺たちはピンチに陥り、霊界神様の力で別の場所へとワープさせてもらった。となれば、グロウとララさんも別の場所にいるはずである。


 「……ん?」


 師匠と対峙した俺たちを……霊界神様が……あっ。


 「……」


 仙人……生きてるかな。


                               第105話の4へ続く

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