第105話の1『奇想天外』
{前回までのあらすじ}
俺は時命照也。変な島に来ている。
「……んん?」
目が覚めた。ここは……大賢者様の小屋の中か。俺は適当に床へと転がされていて、すぐ顔の隣にはデカい膝小僧があった。
「テルヤアアアアアアアアアアァァァァァァァァ!」
「おお……ヤチャ」
「勇者よ。気がついたか」
小屋にはヤチャがいて、寝ている俺の横に座っている。ということは、俺はヤチャを探しに行ったはずが、逆に救助されて大賢者様の元まで連れ戻されたのだろうか。ひとまずは感謝の気持ちを伝えてみる。
「ヤチャ。助けてくれて、ありがとう」
「それはオレサマのセリフだぞおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!」
「……?」
「おぬしが助けてきたのだろうが。憶えていないか?」
……俺がヤチャを助けてきたのか?いや、まったく憶えていない。森に入った辺りで意識は途絶えてしまったし、そのあとの俺が何をしていたのかはつゆも知らない。大賢者様は壺の上に立って、尻尾の先で壺の中の水をかき混ぜ始めた。
「わらわも、おぬしの行動に疑問があってな。見るか?」
「ぜひ……」
俺が森に入って、ヤチャを助けて帰るまでの事柄。それを映像で見せてくれるらしい。だが……なんだか寝言を録音されて聞かされるみたいな、やや気恥ずかしい心持ちである。俺とヤチャは壺の中の光へと視線を落とした。映像の中にいる俺は、湖のフチをフラフラと歩き、木の下で休憩を始めたところである。
「……青いオーブを叩き始めましたね。俺が」
「あの湖は、魔力の宿っていない水でできている。魔力を充填できないならば、飲んでも触れても体に吸収されない」
大賢者様いわく、そういう理屈らしい。それで青いオーブから出た水は体に吸収されたけど、湖の水触れてもうんともすんともだったのか。太陽の光も気持ちよくなかったし、この島の環境は魔力のない特殊なものだと考えられる。
「あ……緑のオーブだ」
映像の中の俺は赤いオーブを取り出したり、青のオーブに持ちかえたりしながら歩き出し、ついに緑色のオーブを手にした。これを使ったあたりから、もうなんにも憶えてないんだよな。映像の俺は緑のオーブを力強く、パッと両手で叩いた。俺の体が不思議な緑色の光をまとい、なぜだか俺は服を脱ぎ始める。
『やったぜ!』
なにが『やったぜ!』なのか解らんが、そう叫んだ俺は一枚ずつ服を脱ぎながら森を進んでいく。ただ、最低限の理性は働いているからか、パンツと靴だけは脱がず全裸の間際で踏みとどまっている。そんな俺の行方に、いくつかの小さな人影が現れた。
「……大賢者様。なんですか?あの人たち」
「うさぎ犬人間だ。この島の原住民だな」
「うさぎ犬人間!?」
うさぎ犬人間だ!よく姿は見えないけど、長い耳とボサボサの尻尾がついているコビトである。その中でも恰幅のいい1人が俺にヤリを向け、しゃがれた声で呼びかけて来る。
『お前、バカ?』
『うん!』
『よぉーし!よぉーし!』
簡単な会話を通して同調した俺とウサギ犬人間はスキップしながら行進し、花畑らしき場所まで移動した。コビトたちは紫色の大きな花へと乗り、その上でポンポンとはねて遊び始める。何を思ったか俺は、その花へとキックを放った。ボウンと黄色い花粉を噴き上げて、コビトは空高くまで打ち上げられていく。
『わはは!わはは!』
『あははは!』
打ち上げられたコビトは怒るでもなく、次々と撃ちだされながら楽しそうに笑っている。俺も含めて大爆笑を続けており、それが30分ほども絶え間ない。見ていて頭がおかしくなってきた……そんな中で、ふと映像の中の俺は真顔になってコビトに尋ねた。
『仲間を探している。知らないか?』
『……』
突然の俺の質問に、コビトたちも笑い声をひそめた。やや相談などをかわした末、あちらも真剣な声色で俺に問いかけた。
『お前、コックン?』
『ああ!コックンコックン!』
『……おー!コックン!わはは!わはは!』
『あはははは!』
謎のやり取りがなされ、また俺とコビトは大声で笑いながら花大砲ごっこを始めた。やばい。俺が俺についていけねぇ……。
第105話の2へ続く






