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第104話の5『心と体の行方』

 「で、なんの話でしたっけ?」

 「おお、話が脇道にそれてしもうたが、要するにだ。おぬし、戦うよりまず、その前提として足りないものがある」

 「それは?」

 「そこは自分で考えろ」


 技は教わるものではなく盗むもの。自分で気づかねば意味がない。すぐには聞かず、自分で考えろ……これらは修行シーンで頻繁に聞くセリフの数々と思われるが、俺の場合は足りないものが多すぎて、何を鍛えればいいのか非常に迷う。筋力か?忍耐力か?魔力は……無理なんじゃないだろうか。


 「わらわの見たところ、おぬしの仲間内で努力が必要なんは……まず、おぬし。勇者」

 「ですよね……」

 「あと、ヤチャとか言ったな。やつが全然ダメ。あれじゃ、あの師匠には勝てん。そこで、おぬしたちには、魔力のなんたるかを教えてやらねばならぬ」

 

 ……その口ぶりだと、俺も魔法が使えるように修行するのか?俺の設定としては、どこにでもいる普通の高校生なわけで、魔法の素質が0なのは言うまでもない。というか……自分で考えろって言ったのに教えてくれちゃうキツネさん。


 「俺も魔力を鍛えるんですか?」

 「うん」

 「あと……自分で考えろって言いませんでした?」

 「……言ったが、どうせ考えても気づかんだろ?」


 このキツネの人、思ったより優しいぞ。答えをもらえてしまったことに拍子抜けしつつも、じゃあ誰が魔力について教えてくれるのかと、その疑問についてもぶつけてみた。


 「……でも、どうしたらいいのか、さすがに自分では」

 「んなもん。わらわがいる。神のたっての頼みだ。この大賢者・カナリシッテ様より適役はおるまい」

 「え……賢者?」

 「大・賢者」


 賢者……どこかで聞いたな。ええと、確か……アマラさんと霊界神様が会話した際に出た、神の力を持つとされる人物だ。まさか、その実態がキツネだったとは。姿はともかくとして、ただの野生動物でないことが解ったので、やっと俺の聞く耳もたってくる。


 「大・賢者様は、どうしてこんな場所に……」

 「力のあり過ぎる者が、世界に関与し過ぎるとロクな事はない。アマラのやつにも手を出し過ぎるなと言っておるのだが、やつめ。おせっかいでなあ」


 やっぱりアマラさんとは知り合いのようである。色々と聞きたいことはあるのだが、取り急ぎやるべきを賢者様は告げる。


 「わらわが稽古をつけてやる。夜が来る前に、あのヤチャとかいうやつ探してきな」

 「ヤチャ。ここに来てるんですか?」

 「どっかに引っかかっておるだろ。ヒント、欲しいか?」

 「欲しいです」

 「しょうがないのぉ」


 俺の能力のなさを知ってのことか、やけに大賢者様が優しい。再び壺の中をのぞきこんでみると、今度は師匠と戦った場所とは違う、別の場所が映し出された。ここ……どこだ?


 『ゼロさん。元気を出して』

 『……』


 ぼんやりとしていた映像が鮮明となり、装飾やインテリアも豪華な一室が壺の底に見えてきた。テーブルを挟んで会話しているのは……ゼロさんと、セントリアルのサーヤ姫だ。あれ……ヤチャは?


 『しかし……私が戦えてさえいれば、勇者も、みんなも守れた』

 『……ええ。敵対した相手の力は強大と聞く。あなたが後悔する必要はない。あの勇者のこと、やすやすとは死なないに違いない』


 俺が大賢者様の島へと飛ばされたのと同様に、ゼロさんはセントリアルに送られたらしい。俺が生きているのか死んでいるのかも解らない中で、師匠に全く歯が立たなかったことを悔やんでいるのだろう。そんな姿を見てしまったら、俺も早くゼロさんに会いに行ってあげなくてはと思い知らされる。


 『……そうですわ。ゼロさん。ワタクシ、不安を取り除く。その術を心得ているの』

 『……そうなのか?』

 『ふふ……ワタクシの寝室へ行きましょう。そこでワタクシが、あなたの心と体を』

 「やあ、すまん。映す場所を間違えた」


 そこまで見たところで、大賢者様は壺の中の映像をかき消した。あれ……これ、もしかして……ゼロさんの心と体、危ないんじゃないのか?俺は色々と不安になった……。


                                第104話の6へ続く

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