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第104話の3『しゃべった?』

 「……」


 ここがどこかを調べるためにも、ひとまず木から降りて陸地に足をつけたい。しかし、俺のいる場所はタワーの上ともいえる高さで、顔向きを下げてしまえば高所で目が霞む。カラフルな葉っぱが木の枝をおおいかくしており、どこへ足をかけて降りればいいのかも解らない。


 お猿さんは何も考えていないといった穏やかな顔で、俺にくれた不味い木の実を食べている。ここに住んでいるお猿さんのようだが、雰囲気からして会話ができる様子はない。落下する恐れもぬぐいきれないけど、とりあえず道筋を探して下へと向かおう。


 「木の実、ありがとうございました」

 「……」


 お猿さんに手を振って別れ、俺は大樹の草を手でかきわけてみた。この先は……枝がないな。幹にそって歩いた方がいいのだろうか。幹の螺旋状に出っ張っている部分を辿って、行ける場所まで行ってみる。


 「……う~ん」


 進めるのは、ここまでか。むしろ、上にのぼった方が視界が広がって、もっと遠くまで見えるのかな。そうも考えてみたが、上は更に草が生い茂っており、登るにあたって手掛かりになるものも近くにはない。しかし、不思議だ木だ。葉っぱの色や形に統一感がないし、1本の大樹のはずなのに、さまざまな木の実がなっている。まるで、この世の全てをごちゃごちゃにしておっ立てたみたいだ。


 「……お?」


 進めそうな道に見当がつかなくなったところで、さっきのお猿さんが俺の近くにやってきた。また木の実をくれるのだろうか。


 「……?」


 お猿さんはカモンといったふうに指の動きで俺を呼び、木の枝に巻き付いているツタのようなものをのばし始めた。ツタを枝から下にのばして、それをつたって下へと降り始める。その手があったか。俺もお猿さんの真似をして、枝から下に降りていく。


 「……あれ?」


 植物かと思ったが、ツタをよく見てみると……コンセントに差す電源コードに似ている。ツタの先端もプラグっぽい形をしている。途中でツタが切れたりしないかと不安にもなったが、お猿さんの方が俺よりも大きくて重そうな訳で、それに気づくと安心して後ろをついていくことができた。


 木は下へと降りれば降りる程に人工物らしさを強め、根本の方は既にコンクリートで固められたかの様相であった。ここまでくれば、あとは滑り降りるかたちで下へと向かえる。すっかり低くなった視界を動かし、俺は仲間の姿がないかと探してみる。


 「……お?」


 木の根っこから降りて砂利道を歩くと、1軒のプレハブ小屋みたいなものが目についた。誰か住んでるのかな。水たまりを跳び越し、大きな扉をノックしてみる。


 「……すみませーん」


 返事はない……が、俺のノックに応える形で、小屋の扉が倒れてきた。体で支えようと思ったが、すぐに扉の重さに気づいて逃げ出した。ズドンと音を立てて、扉が水たまりを押しつぶす。しぶきがあがり、俺はビショビショになってしまった。


 「……」


 これ、俺が壊したんじゃないよな?ノックしたくらいで壊れる扉だから、元から立て付けが悪かったに違いない。罪悪感を振り払って小屋の中をのぞく。すると、背後から誰かの声が聞こえてきた。


 「……壊したな?」

 「……」


 ゆっくりと振り返ってみる。しかし、お猿さんの姿しかない。しゃ……しゃべった?


 「……」


 手に木の実、口をもぐもぐさせているお猿さんは俺に構わず、のそのそと木へ戻っていった。その後ろから、小さなキツネ……みたいな生き物が現れ、改めて俺に尋ねてきた。


 「壊したな?」

 「……いいえ」

 「見たぞ?壊したな?」

 「……いいえ」

 

 キツネがしゃべっている事実には驚いた……でも、扉が壊れた責任は負いたくないので、その点において俺は絶対にゆずらなかった。


                               第104話の4へ続く

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