第104話の1『白き闇の波動』
{前回までのあらすじ}
俺は時命照也。恋愛アドベチャーゲームの主人公なのだが、なぜかバトル漫画みたいな世界に飛ばされた。四天王の最後の1人が俺とヤチャの師匠だと解り、その師匠が作り出した試練についてもかろうじて突破に成功する。あとは階段を上がれば操られている師匠と対面できるはずなのだが、疲れたので少し休んでいるところである。
「グロウ……立てるか?」
「……ああ、俺はいいぜ」
「オレサマも行くぞおおおおおおおぉぉぉぉぉ!」
グロウの呼吸が安定してきたので、そろそろ師匠とご対面といこうと思う。レジスタを襲った光の矢や、こんな試練を作り出す能力の高さから見て、師匠が常人ではない力を持っているのは間違いない。とはいえ、こちらは負傷者も少ないし、ヤチャもグロウもいる。最後にオーブだけ俺が処理すれば、他に俺の出る幕はない……といいなぁ。
「よ……よし。行こう」
光の矢が伝えに来たメッセージからして、師匠に呼び出されたのは勇者である。そこで、最も弱いのは重々承知の上で、俺が一先に階段へと足をかけていく。黒い壁に手をつけつつ、階段を一つ一つと進む。すると、次第に周囲の岩壁が薄れ、白いもやの中を歩いている状態となった。
「……ッ!」
ゆっくりと上の段へと足を乗せるも、俺の足は階段へはつかずに踏み抜いてしまった。また魔力の階段か。この先の地形が、どうなっているのか。俺はララさんに尋ねてみる。
「この先に、階段はありますか?」
「階段じゃなくて、土がある。坂になってるわよ」
「ええ?」
周りには壁もなくなったが、だからといって空も地面も見えてはいない。不思議な空間だ。ララさんやグロウ、ヤチャには道が見えているらしく、階段の登る動きとは少し違う、坂道を歩く動作で先へと進む。また俺はゼロさんに背負ってもらい、みんなのあとをついて師匠の元へと向かった。
「……誰かいるわよ」
「……?」
足場も見えない。壁も見えない。ただの白い空間。そんな場所を登っていく。すると、ララさんが誰かを見つけたとして指先を向けた。あの人が師匠だろうか。その人物は体中から白いオーラを放っており、両手を腰の辺りに当てて構えたまま、じっとして動かずにいる。なお、魔力のない俺の目からすれば、師匠が空中に静止しているようにも見える。
「お……おししょうさまあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
「……」
ヤチャが叫ぶ。しかし、師匠にはリアクションがない。先程のテレパシーをもって、師匠の自我は断たれたのかもしれない。師匠へと近づく俺たちへと向けている目も、白く濁り切って何をとらえているのか解らない。そんな中で、師匠は低く威圧するような声で告げた。
「勇者……倒す」
「……ッ!」
「倒す……おおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
師匠の咆哮と共に空気が大きく振動し、まるで肌をヤスリ掛けされたように悪寒が走る。それを感じとったのは俺だけではないようで、他の人たちも同じように身構えたまま動けずにいた。密着しているゼロさんの体から、動揺か恐怖かとも解らない震えが伝わってくる。
「全力魔解放……」
周囲の空気が、どよりと体にまとわりついてくる。とてつもない魔力……師匠の攻撃が来る。それが解っているのに、俺を含めた誰もが、指先ひとつも動かせずにいる。師匠の背後に何か、巨大なもの……幻影か?大仏ほどもありそうなガイコツの影がチラついた。失いそうな意識を保ちながらも、なんとかせねばと俺は思考をめぐらせた。
「……」
ダメだ。そもそも、俺は自分で立てもしない。戦える土壌にすら立っていない。びりびりと体がしびれる。声も出ない。ただ、大きな恐怖を目の当たりとして、涙だけは目からこぼれ落ちた。
「破・滅・爆・弾んんんんぅぅぅぅぅぅぅぅ!はあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
師匠の両手、背後に鎮座する巨大なガイコツの瞳、そこから白い魔力が溢れ出し、世界を歪めながら一気に膨れ上がった。ものすごい熱に体が飲み込まれる!ダメだ……今の俺には、どうすることもできない……みんな、ごめん。
第104の2へ続く






