第33話の2『水の塔』
すぐ近くにはヤシの木が一本だけ立っている典型的な小島があったのだが、それよりも気になるものが遠くの景色に見えてしまう。それは巨大な水の柱……というよりかは、恐るべき大きさを誇る水の塔である。常に大量の水を噴き上げ続けており、その飛沫が小雨の如く青空から降り注いでいる。
そんな威圧的なものは置いておいておくとして……ひとまず、俺たちは小島へと上陸した。歩けば3分ほどで一周できる陸地ではあるものの、地に足が着くというのは良いものだ。落ち着いたところで、気になる水の塔についてギザギザさんに尋ねてみる。
「あの……アレは、なんですか?」
「わかんね。なあ、アレ。いつからあった?」
「ちょっと前くらいでしタコ!」
「タコヤーキ!いつ飯を食ったサバ?」
「ちょっと前くらいでしタコ!」
「ギャババ!タコの『ちょっと前』はアテにならないぜ!」
なんだか、この世界に来て初めての気さくなノリに気圧されてしまったが、これが海賊団員同士のジョークのきいた会話というやつなのだろう。どうせだから、ちょっと乗っかってみた。
「へえ。タコヤーキさんは手脚が、たこさんあるので、ナイフもフォークもスプーンも一度に持てそうですね」
「タコをバカにするなイクラ!ぶっ殺すぞイクラ!」
「……すみません」
イクラさんの逆鱗に触れてしまった。しかし、イクラさんはイソギンチャクなので、逆鱗とはいえ鱗は無い……などと言ったら、今度こそ殴られるかもしれん。情報が出てくるまでは少し静観しよう。
「そういや以前、タコヤーキが、あの水流に近寄ってみたことあったんじゃなイカ?」
「そうだっタコ!イカヤーキが助けてくれなかったら、空まで飛ばされていましタコ!」
「仲の良い兄弟だサバ」
イカのような人とタコのような人は兄弟らしい……もはや、つっこみどころが多すぎるため、そこも見て見ぬふりをしていこうと思う。イクラさん以外は温厚な人が多いようなので、彼の怒りに触れないよう謎の巨大水流について聞いてみる。
「イカヤーキさん。あの水流、近づくと吸い込まれるんですか?」
「いや、中に入るのを拒むように弾き出してイカ。おや?確か、あれが出現した頃と、化け物が出てきた時期は、イカにも近いんじゃなイカ?」
「となると、あれが化け物と関連している可能性は……っていうか、今さらですけど……化け物ってなんなんですか?ギザギザさん」
「わかんね。ただ、いつからか現れ出してよ。海中の魚を食っちまうんだよ。いっぱい種類もいて、正体不明だ」
ギザギザさん達も水の塔に関してはご存じないらしい。とすると、俺たちが向かうべきか否かはツーさんに尋ねてみる。
「ツーさん。あの水の塔から、魔物の気配ってします?」
『すごい!魔物じゃないよ!もっと凄い!』
「勇者。あそこに四天王の一人がいるのでは?」
「そう思います?水の中か……参ったなあ」
ツーさんの言葉から俺もゼロさんと同じ考えに辿り着いたが、今回はワルダー城のように歩いて侵入は不可能だ。かといって、イカダに乗ったまま戦うのは不自由である。こういう困った時のルルル頼みなのだが、そちらに視線を向けたら顔をそむかれてしまった。
「ルルル。水中で自由に移動できて呼吸もできて、ついでに強くなる魔法とかない?」
「ん~。息は、あたちがくっついていればできるけど、自由に移動は無理なんよ。強くなるのは自分で頑張るのじゃ」
「……万策尽きたか」
第33話の3へ続く






