第103話の2『役割分担』
この迷路に入った時点では、ゴールの扉は開いているように見えた。それが今は、行き止まりとしてふさがっている。やっぱり、鍵を手に入れて開かないといけないのだろうか。
「仙人。扉、閉まりました……」
「なにぃ?閉まっただと?」
「迷路の中に入ると、扉が閉まる仕掛けなのかもですね」
「しゃらくせぇ……んじゃあ、最初っから閉じておけばいいってもんだぜ」
俺と仙人のやりとりを受けて、グロウのイライラが加速している。だけど……グロウの言う事も一理ある。これを確かめる為には、お手数ですが……。
「ここまで来てもらってなんなんですけど……一旦、入り口まで戻りませんか?」
「なあ……勇者。行ったり来たり、開いてるだの開いてねぇだの。そろそろ、怒っていいか?」
「いや、なんで戻るかっていったら、お前が良い事を言ったせいなんだぞ……」
「……ああ?」
グロウは考え方が単純な割に意外と常識があるから、俺たちが疑ったりひねくれて考えたりしてしまうところをスムーズに判断してくれる時がある。ただ、本人は物事の真相に辿り着く気がないので、そこは俺の役割だと思って1つの答えを出した。
「お前の言う通り、最初から閉まっておけばいいものが、わざわざ開いてるんだ。俺たちが迷路に入って、しばらくの間は」
「……つーと、なんだ?」
「答えは、全力疾走」
「……あ……ああ!合点がいったぜ!そういうやつかよ」
試練の内容は速さを試すというものだ。迷路の本質と道順を理解する速さ。あとは扉が閉まるまでに駆け抜ける速さ。そう考えれば、やるべきことは解る。あと残っている問題はといえば……俺が自分で走れないってことくらいだ。迷路の攻略法についての会話をしつつも俺たちは歩みを戻していき、俺の体を抱えているゼロさんが迷路の入り口らしき場所へと立った。
「この場所が、迷路の入り口だろうか?」
「ここから下りになってるわよ。気をつけて」
ララさんの補助を受けて、俺を抱えたゼロさんが迷路の入り口へ足をかける。再び俺は目を閉じて、迷路のマップを確かめた。やっぱり、迷路の頂点に位置している出口は開いている。ヤチャに迷路へ入ってもらい、誰かしらが迷路に侵入していると、一定の時間で扉が閉まる事実については先に証明した。そこまで解ったところで、俺は引けた態度で作戦を告げる。
「みなさんに……恐縮なんですが、やってほしいことがありまして」
「……?」
「協力して、俺を出口まで運んでもらえればと」
「……」
師匠を説得できるか否かはさておき、師匠がオーブを持ってる以上は、勇者である俺が迷路の先へ行かねばならない。でも、俺は自分では走れない。するとだ。単純に考えて、もう運んでもらうしか術はない。正解の道は俺が探す。迷路をおぼえて、超スピードの中で、間違うことなくナビをする……正直、これはこれでハードルが高いが、そこだけは責任をもって努めようと思う。
「出口までは俺が案内します」
「わしはいいぞ」
「私もいいけど……勇者の人は持てないわよ?」
本人から申告があった通り、ララさんに力仕事は無理だろう。リレーの形式で先回りしてもらうことはできない訳で、全員を運ぶだけの体格や、走る順番も考慮せねばならない。一応、俺はグロウの方へ視線を向けた。
「……」
「んだよ。てめぇ」
「……」
「……」
「……」
ここまでついてきてくれたグロウではあるが、この試練で俺を助けてくれる理由はただの1つもない。でも、手伝ってほしい。手伝ってくれ。その気持ちを込めて、ただ沈黙をぶつけてみた。
「……」
「……」
「……」
「……ああ……解った解った。さっさと行って、四天王を倒してこい」
「お前、いいやつだなぁ」
グロウがやってくれるなら、他の人の負担も軽減される。その分、スピードも出せるだろう。それでは選手がそろったところで、俺たちは全員、仙人の大きな体にしがみついた。
「……お?おお?なんぞや?」
「まあ、仙人は力があるし、ララさんがいないと迷路が見えないので……一番手で」
「オレサマ、乗るところがないぞおおおおおおぉぉぉぉ!」
他の人たちは仙人の肩や腰につかまっているが、ヤチャはデカすぎて乗るところがない。あと仙人の体で、空いてるところ空いてるところ……あっ。
「……」
ヤチャには仙人の頭の上に片手逆立ちしてもらった。絵面は凄いが、思いのほか安定している。
第103話の3へ続く






