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第102話の5『何が始まるんです?』

 ヤチャに抱きかかえられて俺は試練の球から体を出してもらい、同時にゼロさんも球から手を離す。魔力の供給を絶たれた試練の球は、ぼやけながらも姿を消した。そのほか、やっぱり俺の目には部屋の壁や模様も未だに見えておらず、雲と空、眼下に広がる森と大地が視界にあるのみである。


 「勇者の人、結局……試練ってなんだったの?」

 「ええと……」


 ララさんが困り顔で聞いてくる。そっか。球の中にいる俺だけが幻覚に苦しんだわけで、外にいる人たちからすれば何があったのか解らないのか。しかし、己の恐怖に立ち向かってうんぬんなどとカッコいいことを言うのは恥ずかしかったので、かいつまんで大雑把に説明しておいた。


 「暗所と閉所の恐怖症チェックみたいなものです」

 「へえ。まあ、勇者なのに、そんなわけないわよね!」


 なお、過去のトラウマにつき高所は恐怖対象であり、今もヤチャの手に持たれたまま上を向いている。そのトラウマを植え付けてきたカラスの人が、部屋の先へ剣の鞘を向けて告げる。


 「道、出てきたぜ」


 今度こそ第2の試練を突破したとあって、俺には見えていないが先へ進む通路が出てきたらしい。俺は床に立てないので、このままヤチャに運んでもらえるよう頼みつつ、上で待っている師匠の元へ向かうよう提案する。


 「ヤチャ。悪いけど、このまま運んでいってもらっていいか?」

 「いいぞおおおおおぉぉぉぉ!」

 「あ……あっつ!気合は入れなくていい」


 ヤチャは魔力を放出する時、同時に体から高熱と光を発する。熱湯に入れられたような熱さの中、俺はヤチャの肩をタップして熱をしずめる。


 「わしが先頭に立つ」

 「仙人。気をつけて進みましょう」

 「うむ」


 試練の球の中で見た幻想が現実になるとは思えないが、なるべく慎重に進もうと声をかけておいた。この状況では、本当に俺は何もできない。今後、どのような試練が待ち受けているのか……いや、そもそも、試練って幾つあるんだろう。


 「ヤチャ。どのくらい上から落ちてきたんだ?」

 「それなりだぞおおおおおおぉぉぉぉ!」

 「どれなりだよ……」


 どのくらいといっても、それを表す単位などをヤチャが知っているかといえば微妙だし、正確に数字で言われても俺も困るっちゃ困る。試練が100個も200個も用意されているとは思えないが、なるべく少ないと助かる。


 『最後の試練……』

 「……?」


 空へと駆けあがっていく中で、頭の中へ直に声が届く。あと幾つ試練が……などと予想を立てる間もなく、次が最後と宣言がなされた。第1の試練では力を示し、第2の試練では心を試した。となると……次なる試練の内容とは。


 『速さを見せよ。速さを……』


 俺を持ち上げているヤチャの体を振動が襲い、ゴゴゴゴゴという音だけが聞こえてくる。今まさに何が起こっているのかは全く解らないものの、とりあえず試練の前兆だと察しておいた。俺とゼロさんには周りの様子がを見えていない。それを知っているからか、仙人がやけに説明口調で解説をくれた。


 「巨大な岩……いや、山が頭上に浮いている。その亀裂が、まるで迷路のようじゃ。全体像は把握できんが、入ったら出る方法を探さねばならぬ」

 「あ……なんかあるわよ」

 

 ララさんが頭上にある何かを指さし、その指先は何かを追って動いている。何かが逃げているようだが、俺には何も見えない。何が起こっているというのだ。何かにつけて困惑している俺を置いてけぼりにしつつ、グロウは勝手に意気込んでいる。


 「へえ。そういう訳か。面白れぇ」

 「あれをなんとかすればいいのね!私も頑張るわよ!」

 「そういうわけじゃな。わしも全力を尽くす」


 なんかララさんと仙人も盛り上がってるんだけど……なに?なんなの?


 「やってやるぞおおおおおおおぉぉぉぉ!」

 「あっつ!ヤチャ!ストップ!」


 ヤチャ……お前は盛り上がらないでくれ。熱くて焼け死ぬ……。


                               第102話の6へ続く


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