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第102話の2『拍子抜け』

 「テルヤ。お師匠様とは、どのような人なのか」


 そうか。ゼロさんは俺たちの師匠を知らないんだな。ただ、仙人がヤチャの記憶を回想してくれた際に姿だけは見ているだろうから、どんな人物かは想像はしやすいはずである。ララさんとグロウは首をかしげているが、俺も師匠には実に1分間くらいしか会ってない人間だからして、ほぼ2人と立場は変わらなかったりもする。


 「ええと……ヤチャ。師匠って、俺たちに稽古をつけてくれた人、だよな?」

 「そうだぁ。生きていた……テルヤァの言う通りだったぞおおおぉぉぉ!」


 俺がヤチャと探り探のり話をしている内に、どういった素性の人物なのか皆も理解してきたらしい。同時に、なぜ師匠が四天王のオーブを持っていて、俺たちに試練を与えてくるのかについて疑問も芽生えたようである。結果、これからどうするべきかについてい、仙人が短めに総括してくれる。


 「会ってみなければ解らぬか」

 「ですね……」


 改めまして、俺たちは部屋の中央にあるっぽい球っぽいものを見つめる。上の階へと進むには、まず第2の試練を突破しないといけない。そういや、どうやってヤチャは上まで行ったのか。


 「ヤチャ……どうやって上に行ったんだ?」

 「飛んでいったぞぉ……だが、入れなかったぞおおおおぉぉぉぉ!」

 

 なるほど。上までは行けたけど、師匠の姿を確かめただけで中には入れなかったのか。やはり試練は避けて通れないと見て、俺は覚悟を決めた。


 「ゼロさん。俺を球の前までつれていってもらえますか?」

 「解った」


 足の魔道具に力を込めて一歩ずつ進み、ゼロさんは適当な場所を探して立った。微妙に立ち位置が違うのか、ララさんから注意が入る。


 「あの……もうちょっと左よ」

 「ここか」

 「行き過ぎじゃねぇか?」

 「こちらか……」

 「おしい。少し戻りすぎ……」


 段々、目隠ししてスイカ割りしてる気分になってきた。ララさんとグロウが交互に案内をしてくれるのだが、埒が明かないのでララさんに手で指示してもらった。


 「……ここにあるんですか?」

 「あるわよ!」


 ララさんいわく、俺とゼロさんの前には球があるらしい。やはり球の中に入る直前になっても、時間も止まらなければ選択肢が現れない。つまり、この見えない球に入った時点で死亡が確定する訳ではない。そう俺は考えた。つまるところ、あとは俺の行動次第だ。


 「ゼロさん。中に入れてもらっていいですか?」

 「いいのか?」

 「はい……」


 ゼロさんは背中にいる俺を担ぎ直し、ララさんの的確な指示を受けつつ、魔力で出来た球の中へと俺を運び込む。


 「……手を放していいのだろうか」

 「ど……どうぞ」


 ゼロさんにも球は見えていないので、手放すにも困惑の色が見える。俺にも球や部屋は見えていない訳で、ゼロさんに手を離されたが最後、遥かな大地へと落ちていくとしか思えない。いや、これは……。


 「あっ……」

 「ふんっ!」


 ゼロさんの手から落とされ、そのまま俺は地上へと落下していきそうになった。その直後、ヤチャが即座に体を受け止めてくれた。あ……あぶねぇ。


 「ありがとう。ヤチャ」

 「いいぞぉ。ふふふ……」

 「まあ、ゆかも踏めないのに、球に入れるわけないわよね……」

 

 ごもっともだ。ララさんの発言を受け、俺は恐怖で息を荒げながらも頷いた。すると、何を思ったかゼロさんは球に手をかざし、腕の魔道具から魔力の放出を始めた。次第に球は輪郭を露わとし、いびつにうごめく模様や、パカッと開いているフタなども見えてきた。


 「これならいいだろう」

 「あ……ありがとうございます」


 このままでは球に入るだけで1話まるまる使ってしまいそうなので、今度はためらうことなくヤチャに球へと入れてもらった。次第に球のフタは閉まっていき、見送るゼロさんの顔も見えなくなっていく。さあ、試練の始まりだ。フタが閉まり切ると、なにやら今度はフタが開きだした。なにが起こるのか。俺はドキドキしながら外の風景に目をやった。


 「……」

 「……テルヤ。おかえりなさい」

 「あ……ただいまなさい」


 ゼロさんがいる。みんなもいる。試練の球は閉じて開いた。ただ、それだけであった。



                             第102話の3へ続く

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