表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/583

第4話『暗闇(ちょっと明るい…)』

 《 前回までのあらすじ 》

 俺は恋愛アドベンチャーゲームの主人公のはずなのだが、なぜかバトル漫画らしき世界へ飛ばされた。勇者として旅立った俺はオトナリの村という場所を訪れたのだが、その村は魔王の手におちていた!追いつめられた俺は今、謎の必殺技・爆裂拳を出そうと試みているところ!


 屋敷から脱出を果たしたものの、あれよあれよという間に俺たちは崖の下へと追いつめられ、頼れる仲間のヤチャは痺れて体が動かない状態。対している相手は30人を超える村民たちと、巨大な体をもつ豚の化け物。そんなピンチの最中において、俺は右手を頭の後ろ、左手を腰に当て、珍妙なポーズで必殺技を出そうとしている。なんだこれ……。


 これじゃあバトル漫画じゃなくて、俺だけギャグ漫画のノリだ。そうなるよう指示したヤチャへと不信感を視線で送ってみるが、あちらは動かない体をしきりに痙攣させているだけ。他に頼りもないわけで、俺は観念して正面を見据えた。


 「くらってみろよ!俺の渾身のパンチ攻撃を!」

 「そんなもの、おらには効かないぶひっ!こけおどしぶひっ!」

 「いくぞ……いくぞ!俺の拳は全てを貫き、全てを打ち破る!それが必殺・爆裂拳!あ……う……投票できるぞ選挙権!真っ赤なリンゴは青森県!特別先行前売券!」

 「こいつ、謎の呪文を……ぶひっ!」


 と、挑む勇気が出るまで時間稼ぎをしている。こんなことを漫画やアニメでやっていたら引き延ばしだ尺稼ぎだと怒られそうだが、俺たちだって少しは考える時間が欲しいのだ。という申し訳。


 「貴様が来ないなら、こっちから行くぶひっ!うおっー!」

 「くっくっ……くらえー!爆・烈・けーん!」


 つっこんできた豚の化け物へ目掛けて、俺は貧相な拳を爆裂拳などと称して打ち出した!その時、目の前に光がほとばしり、夜の闇を一気にかき消す!これが俺の力……爆裂拳、恐るべし。そんなことを考えながら、俺は意識を失った。


 ……とうとう俺も死んだのだろうか。そう思う程の虚ろな意識の中、静かながらも風の吹き抜ける音が聞こえた。人の声はない。目をつむっている中、何かが俺の顔を濡らした!


 さては、あの豚悪魔め!俺の上でヨダレを流して、どういたぶってやろうか吟味しているに違いない!となれば、近くには変わり果てた姿のヤチャも転がっているのだろう!黙って殺されてたまるものか!俺は一気に目を開いて飛び上がった!


 「うわあぁ……あ……あら?」


 近くには豚の化け物などいやしなかったし、再起不能となったヤチャの姿も見当たらない。それどころか、目を開いたはずなのに暗く何も見えない。混乱した頭を整理しつつ、顔についた水気を手のひらでぬぐう。していると、周囲の暗さへと次第に目が慣れて、上から差し込む薄い光の中に岩の壁が見えてくる。


 どうやら、どこかの洞窟に移動しているらしい。となると、顔に落ちてきたのは岩つららから滴り落ちた水滴だろう。とにかく明るいところへ出なくてはと、俺は壁に手をついて歩き始めた。足元には岩の凹凸がひしめいていて、つまづかないよう足を蹴りだしながら進む。


 「ん?」


 何か、ゴロンとしたものを足で蹴ってしまった。暗くて何を蹴ったかは定まらないが、その下に落ちているものをまたいで先へと進む。岩の段々を上がった先に淡い光が見えた為、俺は足元に気をつけながら進んでみた。


 洞窟の上にある穴を仰ぎ見ると、その向こうには星の散りばめられた空があった。そこから顔を出してみる。すると、向こうに何者かの屈んでいる後姿があった。


 その人はマント……ローブというのかな。それで頭から足首まで全身を覆っていて、この世界に来てから未だ会った憶えのない人物に見える。あわせて、ここは何処か高い場所らしく、その人は警戒するように下を覗いている。気絶していても命をとられていなかった訳だから敵ではないと思うが、ここは慎重に謎の人物の動向を探ってみた。


 謎の人物は着ている物もはためかせずに立ち上がると、俺がいる方へと振り返った。服装は前述の通りだし、その顔も仮面に覆われている。厚みのある体格から察するところ、ごつい男の人だろうか。気配を察知されたかと思い、俺は穴の中へと頭をひっこめた。


 見つかったら脅されるのか?話しかけてくるのか?期待よりかは恐怖の方が強い。胸に下げているぺンダントを握りしめながら、ひやひやと空を見上げていた。しかし、その人は手の小さな珠に光を灯すと、俺の横を飛び降りて穴の奥へと入っていく。なんだか拍子抜けしてしまって安心したと同時、ここに置いていかれても困ると思い、その光を見失わないよう俺は男を追跡した。 


 さっき俺が来た道を戻っているようだが、明るくなって改めて見ると洞窟の中には分かれ道が幾つもある。その中に簡素な引き戸のついている道があり、そこへ謎の人物は屈んで入室していく。あちらは俺よりも身長が10センチくらい高く、俺は屈まずに入り口を通り抜けた。


 部屋の中は相変わらずの洞窟感なのだが、ちょっとした麻布が敷かれていて、くつろぐまではいかないにしても、腰を休めるくらいはできそうだ。部屋の持ち主は光の珠を壁にささっているトーチへと入れ、部屋の奥の方にある大きな岩へと腰かけた。俺も居場所を探してキョロキョロしていたが、部屋の手前の方にキルトが敷いてあったから、怒られないかビクビクしつつも、そこへ腰を落ちつけた。


 夜が明けるまでは外を出歩くのも危険そうだし、このまま謎の人物と二人きりというのも気が持たない。わずかにでも場を和ませようと、俺はローブの人物に話しかけてみる決意を抱いた。


 「あの……」


 挙手しつつ発言権を得ようとすると、相手は出刃包丁みたいなものを取り出して、おもむろに砥石を使い手入れを始めた!物騒なブツが登場したせいで、自然と俺の声も尻すぼみとなって消えた。声に合わせて挙げた手も、そのまま背中をかく仕草に変更した。


 「おーい、テルヤ?どこだー?」


 体の向きすら変えるのをはばかられる空気の中、寝起きっぽいガラガラ声が洞窟の中に響き渡った。ヤチャだ!助かった!ここぞとばかりに俺は立ち上がり、ドアを開けてヤチャを呼んだ。


 「こっちだ!無事だったんだな!」

 「無事なんだけど……さっき何かが頭に当たって、壁に顔ぶつけたぞ」

 「すまん……恐らく、蹴ったのは俺だ」


 さっき蹴ったものの正体が知れたところで、俺は招き入れるようにしてヤチャをドアの内側へと引き込んだ。チラチラとフードの男の様子をうかがいつつも、特にリアクションもなさそうだから俺はヤチャをさっきのキルトが敷いてある場所へと座らせた。逆に俺は落ち着きなく、起立したまま適当な手ぶりを交えてヤチャと会話を始める。


 「この洞窟で目を覚ましたんだ。俺は豚の化け物と戦っていたはずなんだけど……」

 「そうそう。テルヤが爆裂拳を出そうとした時、この人が術を使って助けてくれたんだ!あの光で周りの人たちが眠ったあと、崖に隠されていた通路に連れてきてもらったのさ」


 そうか。あの光は爆裂拳のものじゃなくて、あの男の人が使った魔法だったんだな。となると、テーブルに文字を刻んだり、毒入りの食事を妨害したのも、この人だったのだろう。あわせて、結果的に俺は爆裂拳を使えなかったということだから……今後は身の程をわきまえて爆裂拳は封印だ。


 「そうだったのか。ありがとうございます」


 命の恩人に感謝を告げるも、あちらは僅かだけ俺の方を見て、すぐに顔向きを刃物へと戻す。寡黙な人だ。ただ、これで敵ではないと確信を得た。むしろ、ここで会ったのも何かの縁。あわよくば、仲間になってくれる人かもしれない。そう期待した俺の隣で、ヤチャが絶望的な提案を取り出した。


 「まだテルヤは眠ってたし、ボクは体が動かなかったから、あっちの暗い場所で休ませてもらってたのさ。きっと今頃、村の人たちも目をさまして、ボクたちを探してる。もちろん、明日になったら村を救いに行くんだろう?」

 「……ええ?」


 そ……そうだった!通りかかった村を救う展開なんて、バトル漫画ならお決まり。いや、しかし……俺は爆裂拳なんて使えない一般人。なるべくなら、戦いは避けて通りたい。


 「……ヤチャ。あの村は魔王に支配されている。そんな場所で部下がやられたと知れたら、村人たちが痛い仕打ちを受ける可能性がある。この現状を一時的に解決するより、俺たちは魔王を討つことに専念するべきなのではないかと」

 「なるほど……さすがテルヤ。ボク、そこまで考えてなかったよ!」


 戦いたくない一心から即興で考えた言い訳だが、まあ一理あるんじゃなかろうか。ふと視線を感じて謎の男の人を見ると、仮面越しに一瞬だけ視線があったような気がした。心の底を見透かされ、腰抜け野郎とでも思われてしまったかしら……。


 「ヤチャ。それで、これから俺たち……どこに行けばいいんだっけ」

 「『修行が終わったら、この村を出てパワーアップの塔に行け』と、お師匠様には言われてたんだけど、地図はないし場所までは解らない。とにかく高い塔という話だけど……」

 「まいったな……」


 にっちもさっちもいかなくなり、俺もヤチャの隣に腰を下ろした。すると、前触れもなくペンダントが輝き始める。


 『……勇者テルヤは第二の力・ラッキーパンチ〇に目覚めた!』


 ……ん?


 『……勇者テルヤは第二の力・ラッキーパンチ〇に目覚めた!』


 ……いや、そんな二回も言われても。なんで今、能力が目覚めた?そもそも、なんでラッキーパンチ?まったく戦ってないのに。すぐにペンダントの光は薄くなるが、その光に気づいたヤチャがテンション高めに尋ねてくる。


 「ペンダントが……テルヤ!もしかして、何か勇者の能力が湧いてきたのか!?」

 「えっと。ま……まあね。お楽しみに」

 「すげー!」


 ペンダントの気まぐれに悩まされつつも、次の目的地が解らない目の前の問題と向き合う。そうしていると、筒状に丸められた紙が俺の目の前に転がった。どうやら、謎の男の人が投げたらしく、俺は男の様子を見つめてから、盗むようにして中腰で紙を拾い上げた。


 それは地図のような……そうじゃないような、うねうねとした線の上に三角やら丸やらの記号が大量に描かれている。そんな内容の中、その一か所に指先大の穴が開けられていた。


 「ここが、パワーアップの塔……?」


 男は俺の質問に頷く。彼が何者かは知らないが、この世界の地理を把握しているようだ。助かった。すぐに俺は、現在地をヤチャに聞く。


 「この地図でいうと、俺たちは何処にいるんだ?」

 「……テルヤさあ。ボクが地図なんて見れると思って聞いてるの?」

 「むかつく……が、俺も読めん。あの……」


 あちらに助けを求めようとするも、男の人はバッグを担いで立ち上がった。もう出発するのだろうか。ちょっと待って……と、呼び止めようとしたところ、再びペンダントが光り出した。


 「……ッ!」

 「わっ……危ない!」


 何もないところで男が躓き、それを助けようとして俺は下敷きになった。彼は鎧を着ているのだろうか?とても重い……。


 「ぐっ……あの……だいじょうぶですか?」

 「……っ」


 ローブの下から、装備の硬い感触が伝わる。しかし、俺が助け起こすより早く、急いで相手は自分で立ち上がり駆け出した。が……すぐに彼は豪快に転び、打ちつけた頭を押さえていた。


 ……待てよ。先ほど、あの人と接触した時、なんだか少しいい香りがしたのだ。そして、あの人はなるべく俺と顔をあわせないようにしている。すると、さっき覚醒した能力って……まさか……ラッキーパンチ〇って、あれか!?ラッキー〇ンチラとか、ラッキーパン〇ラとか、そういうことか!


 いや、あちらはズボンだからなんにもチラリしてないけど、転んだ拍子に下着が見える能力と考えれば合点がいく!そう全てが理解できたところで、俺は転んでいる彼女の前へと先回りした。


 「あの、ケガはないですか?」


 ヒザをついている相手の手をとり、そのまま俺もしゃがみこんで視線を下げる。そして、俺は膝をついたまま相手の肩を掴むと、視線を仮面へと向け、声のトーンを落として静かに伝えた。


 「俺を見てください」


 すぐに相手は仮面を俯かせてしまうが、構わず俺は正面から見据える。5秒ほどの沈黙をはさんで、俺は頼みを伝えた。


 「一緒に、塔の場所まで案内してほしい。でも、理由は、それだけじゃない」


 そう告げると、俺は彼女の手を引いて立ち上がった。


 「……よければ明日、会いに来てほしい。じゃあ、また」


 なんとか最後まで言い切り、俺は戸口を抜けて洞窟の上層へと向かった。ポケットに手を突っ込んで暗い洞窟をつかつか歩いていると、後ろからヤチャが追いかけてきた。


 「あんな怖そうな人を旅に誘うなんて、テルヤは命知らずだな!」

 「……そ……そうだな」


 暗い洞くつを手さぐりに進み、先程の穴から抜け出して崖の上へと登る。崖際に座り込んで景色を眺めると、遥か下の方でタイマツらしき光が動いているのを知った。きっと、村の人たちが俺たちを探しているんだろう。ただ、そんな事よりも俺は空に輝く星を見上げた。


 こうして冷静さを保とうとしても、やはり動揺が心から溢れてくる。どうして、あんな告白じみたことを思いつきで言ってしまったんだろう……いや、俺が彼女を引き留めなければ、行き先が解らずに旅は頓挫したかもしれない。多分、メインキャラっぽい女の人っぽい人を見つけたという嬉しさから、あんなことを口走ってしまったのだろう。


 ただ、顔も解らない……よもや、人間ではないかもしれないし、女の人じゃない可能性すらある相手に対して、臆面もなく口説き文句を預けてしまった。そこに少し心配はある。でも、危機一髪のピンチを助けてくれた、信頼できそうな人だったから、何か感じるところがあったのだと思う。不安であると同時に、ちゃんと声をかけた俺をほめたい気持ちもあった。


 「なあ、ヤチャ」

 「ああ?」


 俺の隣に座って、崖の下を見ているヤチャがいる。そちらへ、ふとして恋の相談か、人生の相談を投げかけてみた。


 「もしさ。格闘技か魔法かも解らない、会得できるかどうかも定かでない技があったとして、それをさ。命がけで……覚えようって思う?」

 「ええ?そうだなあ……」


 ヤチャはコメカミに指をあてたまま、渋い顔をして悩んでみせる。うーんうーんと何度も唸った末、問題の答えを出そうとした。


 「ボク、難しいことは解んないけど……」

 「うん」

 「……う~ん。やっぱ……難しいことは解んないや」

 「……ありがとう。少し、元気出た」

 「そうか?よかったな!」


 なんだか、俺も難しいことを考えるのがバカバカしくなった。なるようにしかならないんだ。覚悟を決めよう。そう思いながら洞窟の入り口を見たら、いつの間にか大きめの布が置いてあった。そんなに寒くはなかったけど、ヤチャと一緒に布切れを被って穴の中で寝た。薄い麻の布だったけど、なんだか心なし暖かく感じた。


 次の日、ぼやけた太陽の光で目をさます。ヤチャを起こして一緒に洞窟の中へ戻ったが、どこにも昨日の人物はいなかった。ちゃんと話をする前にフラレちゃったかな……表情には出さなかったが、かなり落ち込む……。


 部屋のトーチに光の玉が残っていたから、それをもらって洞窟を探索する。昨日は通っていない横道を進むと、そこから下へと続いている段差があり、最下層らしき場所には地底湖のある場所があった。


 「テルヤ。あそこから出られそうじゃないか?」

 「出口かな?」


 地底湖の底からは白い光が入り込んでいて、方向的に見て村のある場所とは逆の方に出られそうだ。さいわいにも湖は浅かったから、俺とヤチャはザブザブと水をかいて穴を通り抜けた。すると、水から上がった先で、ビショビショのマントを全身に被っている昨日の人物と再会した。俺は焚火越し、上ずった声を投げた。


 「あ……昨日は、どうも」

 「……」


 相手は俺の方を見て頷くと、こちらに背中を向けた。


 「あのさ。昨日のことなんだけど……」

 「……案内……する」

 「……?」

 「……それが終わるまで……何も言わないでほしい」


 ……好感度は下がってはいないみたい……かなぁ。彼女は綺麗な低めの声で、ちゃんと俺に答えをくれた。また、透けた下着が岩場に干してあるのを見つけてしまい、少し嬉しかった反面、パンのチラもモロも見たことがない俺にはショックが強すぎて、なんだか鼻血が出そうになった……。


第5話へと続く

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ